◇高まる防災リスク、新事業を確立
A 損害保険最大手の東京海上ホールディングスが、日本工営を中核とするID&Eホールディングスの全株式取得を目指す株式公開買い付け(TOB)を開始した。
B ID&E側も賛同しているが、全くの異業種ということもあって正直驚いた。
C ID&E側は、注力する国内外の民間市場進出に、東京海上HDが持つ顧客基盤やネットワークを生かしたいとの思いがある。海外市場をみると、規模が大きい海外コンサルタントに対抗し得る財務基盤や資本力の強化は懸案事項だったのではないか。
B 一方、東京海上側は、将来の成長分野の一つに防災・減災を位置付けている。損保事業にID&Eが持つ技術を掛け合わせ、防災リスクに関する情報・知見を生かしたビジネス創設を目指す。空飛ぶクルマなどの次世代モビリティー向け事業の将来的な展開も見据えているようだ。
A 双方にシナジーとメリットが見込まれるとはいえ、1000億円に満たない価格でのTOBは、建設コンサルタント企業が果たす社会的な意義や技術力に対して安すぎるようにも感じる。
B 建設コンサルタントは、総額で見れば予算が数兆円にも及ぶ国土強靱化や国防に関する案件の上流工程を担っている。仕事の重要性は高いが、施工に比べると実績をアピールしにくく、社会の理解や認知を得られない点は経営者にとって長年の悩みだ。
C これまで、建設コンサルタント業界のM&A(企業の合併・買収)といえば、自社の能力を補う狙いで業界大手企業が主導するケースが多かった。だが最近は、異業種大手が主導する事例が他にも出てきている。今回のTOBは、業界の地殻変動を象徴する出来事になるのか、今後の動向から目が離せない。
◇地域活性化へ実用にらみフェーズ進む
A ところで、「空飛ぶクルマ」も新たなフェーズに入ったようだ。離着陸場の建設という切り口から、建設関連企業が候補地などの環境調査や都道府県の実証飛行に参画する事例が目立つ。
D 和歌山県が社会受容性向上事業の一環として、串本町で実施した実証飛行イベントには長大が参画した。「空飛ぶクルマ運行実現に向けたロードマップ・アクションプラン」に基づく取り組みで、県は今後、離着陸場の設置可能性調査や飛行ルートの検討なども進める。
D 長野県白馬村で開かれた「信州次世代空モビリティ体験フェスティバルin白馬」では、鈴与、アルピコホールディングス、日本空港コンサルタンツ、建設技術研究所、AirXの5社が合同で実証飛行を実施した。県は山岳地域ならではの交通課題の解決策として、空飛ぶクルマに期待を寄せている。リゾートへのアクセス向上が実現すれば観光振興にもつながる。
E 国も実現に向けた支援を進めている。今年6月には国土交通省が「令和6年度バーティポート計画ガイドライン(仮称)の策定に向けた実証事業費補助金」を公募した。垂直離着陸機向け離着陸場の基本施設や機体整備格納庫の整備費用などを支援する内容で、将来の商用飛行を見据えたものだ。
A 社会実装には、地域に応じた運航方法や飛行高度、空域の検討も重要となる。
D 和歌山や長野のように、空飛ぶクルマを軸にした地域活性化のビジョンを描く自治体は少なくない。25年の大阪・関西万博での商用飛行は見送られたが、課題になった安全性審査などがクリアでき、離着陸場の検討段階に入れば、設計や施工を担う企業の参画が増え、フェーズも一気に進むのではないか。