設計や施工に寄り添うモデルづくり
「デジタルで土木分野をアップデートしていきたい」と語るのは、Malme(東京都千代田区)の高取佑代表取締役だ。「設計や施工に寄り添う3次元モデルづくり」をモットーに、土木分野に特化したDX(デジタルトランスフォーメーション)スタートアップ企業として着実な成長を遂げている。
2021年2月の創業時は、国土交通省がBIM/CIM原則適用を23年度に2年前倒したタイミングに重なる。「当時は実務を理解して3次元モデルを作成できる人材が少なく、建設コンサルタントや建設会社が安心して3次元化を任せられる受け皿がなかった」と起業を決断した。
高取氏は九州大学大学院修了後、パシフィックコンサルタンツで途上国政府の政策立案支援や日系企業の海外展開サポートに従事した後、テラドローンの技術統括としてドローン測量を中心とした3次元技術の活用を推進するなど、土木分野のデジタル化に大きな可能性を感じていた。「人材不足や技術継承など経営課題の解決にデジタル化が有効であり、その基盤してBIM/CIMデータの活用が欠かせない」と確信している。社名のMalmeは、師と仰ぐ中村英夫東京都市大学名誉総長が団長を務めた建設コンサルタンツ協会の海外視察に参加し、最初に訪れたスウェーデン最南部の都市Malmo(マルメ)に由来する。起業メンバーである技術責任者の野田敏雄氏も同じ視察団に参加していたこともあり、思い出の地を社名に選んだ。起業後は「設計や施工に寄り添う3次元モデルづくり」を強みに、大手の建設コンサルタント会社を中心に業務依頼が順調に伸び、創業から2年で組織は20人体制、4年目となる現在は40人体制にまで拡充している。
23年度からのBIM/CIM原則化を背景に、3次元モデリング業務依頼は年間100件を超える。建設コンサルタントへの業務支援として提案時から参加し、受注後の3次元化対応までも担うケースも増えている。「これからは設計と施工それぞれの個別最適でなく、設計と施工をつなぐ全体最適を導く役割を目指す」というように、建設会社向けのBIM/CIM支援にも力を注いでいる。
現体制は設計チームと施工チームが10人ずつ、残り20人は開発エンジニアチームの構成となる。企業を支援する中で、設計と施工の両チームが抽出した業務課題を、エンジニアチームがプロダクト開発によって解決する。一貫した対応力が同社の強みだ。直近では中央復建コンサルタンツが実務運用を始めたBIM/CIMモデルを基盤にしたクラウド型メタバース協議システムの開発協力に携わった。「われわれ自身でもメタバースの研究をしていたタイミングで声を掛けてもらえた。ここで得たノウハウを新たなプロダクト開発に生かしていく」と先を見据える。
JR東日本スタートアップ(東京都港区)が取り組む共創プログラムにも選ばれ、今年8月から「技術者ノウハウとAIを掛け合わせた図面審査の効率化」の取り組みも動き出した。鉄道土木工事発注図面の設計審査を自動化するもので、設計業務の生産性向上に結びつける。既にプロトタイプが完成し、来年度末の実装に向けて調整を進めている。このように同社は、土木分野に特化したDXの先導役として歩みを始めた。「プロダクト開発を進める上で、企業の中で情報がきちんと流通することが前提になる。これによってシステムがコミュニケーションツールとして機能する。ゆえにBIM/CIMデータはシステム開発の基盤になる。蓄積したデータをつなぎ、新たな価値に変えることが当社のミッションである」と力を込める。
高取氏の目線は、2030年に向けられている。構造解析や設計業務の自動化が実現したいテーマの1つだ。「スタートアップ企業だからこそ、チャレンジし続けることが宿命であり、どこよりも高い理想に向かって進んでいく。土木分野をアップデートする先導役として、一歩一歩着実に踏み出していく。30年までにはしっかりとした足跡を残したい」。同社は土木分野を新たなステージに導こうと、その歩みを強めている。