耐久・施工・安全性に脚光
FRCは、長繊維織物を樹脂加工した「緊張材」をコンクリートと結合させ、繊維の持つ形状追従性により既存のコンクリートに密着させて「変形しにくい」高靱性体を生成する。
緊張力を担う繊維は2種類に大別され、それぞれ用途に応じて使い分けている。鉄の約10倍という高強度の炭素繊維(カーボン)は、耐火性に優れる。一方、鉄の約8倍の強度を持つPE(ポリエチレン)繊維は絶縁性や耐屈曲性を兼ね備える。
FRCの形状は、CP(コンクリートポール)や鋼管などの中空部に挿入して耐力を回復する「袋状」と、コンクリートの表層からスリット状に埋め込んで鉄筋に替わる「板状」の2タイプを用意する。FRC協会の衛藤武志代表理事は「半永久的に劣化の心配がない社会インフラ材料」と利点を強調する。
「工期を約50%減」をうたうなど、施工性の高さもFRCの魅力の一つ。防護柵の補修では支柱キャップを外して柱内に袋状FRCを投入する省施工の上フタ開口式工法を開発した。注入ホースからモルタルを注入するだけのため、従来のFRCで行う支柱の仮固定と地際の切断が不要になった。FRCは加水分解のない繊維のため水辺のパイルベント橋脚にも対応できる。板状FRCは誰でも簡単に施工でき、既存のRC増し打ち工や鋼板巻き立て工と同等の耐力が得られるため、これまでのモルタル吹き付けや型枠工が不要となり、工数を大幅に削減できる。
安全性に関しても、袋状FRCは鋼板あて板補強工や炭素繊維巻き立て工といった外側からの修繕とは異なり、鋼管内側から防蝕と補強を同時に行うため耐久性が高まる。板状FRCも、一般的にトンネル補修に用いる繊維シート張りだとコンクリート表面が隠れるが、板状FRCはコンクリートに埋まる構造のため、コンクリートのひび割れが目視でき、容易に検査ができる。
工数を大幅削減 点検容易に
近年盛んに叫ばれる「事後保全」から「予防保全」の転換を実現する上でも3拍子そろったFRCは、補修業務に携わる企業にも注目の的だ。18年の袋状FRCの開発以降、市場の機運が高まり、22年5月にFRCの普及を目的としたFRC協会を設立した。24年12月時点でメーカーや商社、工事業者など17社が名を連ねる。会員数は設立当初は5社だったが3年足らずで約3倍に増え、業界からの関心の高さを裏付ける。
既に潜在需要の創出に向けて動き出しており、橋や高速道路でも多くの実績を持つ袋状FRCは、塩害リスクの高い沿岸域での防護柵や高欄(こうらん)に照準を定めるとともに、橋脚や桟橋のパイルベントの補修工事の受注獲得に向けて発信をより強めていく。衛藤氏は「袋状FRCは大口径管の補強が一年通して安全かつ経済的に実施できるため、全国で補修が必要な1万本超の杭補修も夢ではない」と期待を込める。
これまで試験提供のみだった板状FRCは、床や天井、壁の補修・補強に使う鉄筋を代替するため、構造計算プログラムとの整合性など検討を進める必要がある。それらの課題を解消した上で、来年からの本格販売を予定する。特に板状は、従来の補修と違って死荷重や体積を増やさずに鉄筋同等の耐力を発揮できるだけに、業界内からも導入を待ち望む声が多いという。衛藤氏も「老朽化したRC造は、補修による死荷重や体積の増加を敬遠する傾向が強く、重量や体積が要因で控えていた市場に受け入れやすい。複数の設計事務所が補修工事でスペックインを検討している」と手応えを見せる。続けて「これまで土木分野のみに提供してきたFRCが、板状の登場で建築分野にも進出できることは協会としても大きな意味を持つ」と見据える。 昨夏から実施する建設コンサルタント向けのFRCの定期勉強会の開催はもちろん、袋状や板状に加え新建材の開発も急ぐ。将来的な取り組みとして地域維持型JVなども視野に入れており、「これまでFRC協会が積み上げてきた信頼をきっかけに、新たなビジネス展開を広げることが、協会の存在意義に直結する」と引き続き、協会主導の発信に注力していく構えだ。