現世田谷区庁舎(世田谷4-21-27)と区民会館は、1957年に実施された区民会館設計競技(コンペ)で、前川國男が選定された。コンペ段階では、区民会館が中心で、同一敷地に建設される区役所庁舎は概略の配置のみを提案するものとされた。その後、設計を担当し、59年に区民会館、60年に第1庁舎、69年には第2庁舎が完成した。区民会館と第1庁舎、そしてそれらをつなぐ低層棟のピロティから中庭にいたる「広場」を中心にした施設構成は、さまざまな文化活動を受け入れ、広場は区民から親しまれてきた。第1庁舎と区民会館は、DOCOMOMOJapanの『日本におけるモダン・ムーブメントの建築174選』に選定されている。
今回の「提案を踏まえながら、人・組織を選ぶ」プロポーザルは2段階で審査。2次審査は業務取組方針、配置計画、災害対策、環境性能、工期短縮と事業費抑制、前川國男が設計した現庁舎などの空間特質の継承など、6項目の提案を求めた。
2次提案の中には、前川建築の保存について具体的な提案も見られた。既存の区民会館の外壁モチーフや第1庁舎1階のレリーフなど、区民の記憶を目に見える形で保存しようという試みだ。
また、基本設計の対象は、本庁舎を始め、総合支所、議場、区民会館、さらに広場、駐車場を含めたもの。このため、設計者審査委員会(委員長・深尾精一首都大学東京名誉教授)は、深尾(建築)、青山●(にんべんに八と月)(行政関係)、岩村和夫(建築環境)、勝又英明(ホール計画)、出口敦(都市計画)、蓑茂壽太郎(ランドスケープ・環境)、目黒公郎(防災)の各分野を専門とする委員7氏が採点して、最優秀者と次点者を選定する。審査結果は27日に公表予定。区は、10月中旬に基本設計の委託を予定している。
佐藤総合計画
広場を中心とした施設構成継承
敷地の東側で第1、2期(2棟)、西側で第1-3期(3棟)に分け、計5期で構成。区民会館は、発表・表現の中心施設として保存再生する。
前川建築の空間特質である「広場を中心とした施設構成」を継承する。区民会館ホワイエの曲折階段を東1期ゾーンの1階に、第一庁舎のレリーフを東2期ゾーンの1階に復元する計画だ。
「パッシブ低層型庁舎」を掲げ、住宅密集地に適した5階建て構想としている。基本構想で区が想定した8階建てに比べ、外壁面積が縮小することで空調熱負荷は13%削減できる。屋上に配置する「世田谷ガーデン」は、地域環境学習の場として区民に開放。高断熱化して熱負荷の抑制を見込む。駐車場・駐輪場は、各施設の地下1、2階に1万0580㎡を確保する。
施設規模は次のとおり。
▽東ゾーン第1期=地下2階地上10階建て塔屋1層延べ1万4560㎡▽東ゾーン第2期=地下2階地上5階建て延べ1万7939㎡。
▽西ゾーン第1期=地下2階地上5階建て延べ6710㎡▽西ゾーン第2期=地下2階地上5階建て延べ1万1770㎡▽西ゾーン3期=地下2階地上6階建て延べ1万3240㎡。
▽区民会館=3階建て延べ2930㎡。
kwhg+安井設計共同体(安井建築設計事務所・kwhgアーキテクツJV)
2本のストリートで明確な施設構成
新第1、2庁舎と新区民会館で構成する。敷地を2本の「ストリート」が交差し、区民ゾーンと庁舎ゾーンを明確にゾーニング。分かりやすく使いやすい施設構成を目指す。広場の思想を継承しつつ、街路に接続することで、街に開かれた庁舎を目指す。現区民会館の外壁のモチーフを新区民会館に、レリーフの一部や床パターンをストリートの装飾に取り入れる。
新第1、2庁舎の間のストリートを谷のように設計し、「国分寺崖線に沿って広がる緑-Hill&Valley(丘と谷の連なり)」と設定。国分寺崖線に沿って広がる緑の原風景を踏襲しつつ、新たな地域景観を創出する。
全施設の地下に駐車場250台、駐輪場850台を収容するほか、300台駐輪が可能な地上駐輪場も設ける。
施設規模は次のとおり。
▽新第1庁舎=地下2階地上7階建て延べ約2万8900㎡▽新第2庁舎=地下2階地上5階建て延べ約2万2800㎡▽新区民会館=地下2階地上3階建て延べ約3100㎡。
梓設計・坂茂建築設計共同体(梓設計・坂茂建築設計JV)
全棟新築、意匠継承の北棟を強調
前川建築の「空間と形態を現代的、合理的に継承する」提案で、全棟を新築する。
本庁舎を北棟、南棟に分け、既存の第1庁舎の意匠を継承した北棟を際立たせるため、南北で建物の構造が異なる。具体的には、北棟は水平垂直のフレームが印象的なRC造の既存の第1庁舎を継承する形でPC造の建物とする。一方、南棟は木造ハイブリッド耐火構造とし、既存庁舎や北棟のコンクリートの意匠とは対照的になる。
ピロティ・広場は、現状より広い区民広場に生まれ変わる。本庁舎の地下2階に、公用車用駐車場約180台、荷捌き用駐車場約7台の収容能力を確保。区民ホールにも来庁者や職員の駐輪場を設ける。
施設規模は次のとおり。
▽南棟(1期)=地下2階地上8階建て延べ3万2978㎡▽北棟(2期)=地下2階地上8階建て延べ2万2723㎡▽区民ホール=地下2階地上2階建て延べ7160㎡。
久米設計
中庭を囲む「みんなが集まる庁舎」
テーマは「せたがやを育むみらいの杜をつくる」。既存のケヤキはそのまま中庭に残し、すべての施設が中庭を囲む設計で、「みんなが集まる庁舎」を目指している。
高さ条件の厳しい西側敷地には、低層の区民交流棟と議会棟を別棟で計画。既存区民会館の折板構造の形状や、本実(ほんざね)型枠コンクリート打ち放しの重厚感ある表情を透明感あるガラスホワイエの中に再現することで、区民の記憶を継承する。
敷地東側に、地下2階地上10階建て延べ4万3200㎡の行政棟を1棟集約で整備し、ボリューム感を抑える。屋上に「ステップテラス(はらっぱ庭園)」を設け、世田谷の自然風景をつくる。
駐車場は、地下1、2階に125台ずつ計250台を収容する。敷地の地上2カ所に駐輪場を設ける。
施設規模は次のとおり。
▽行政棟=地下2階地上10階建て延べ4万3200㎡▽議会棟=地下1階地上3階建て延べ3290㎡▽区民交流棟=地下1階地上2階建て延べ5600㎡。
環境デザイン・綜企画グループJV設計共同体(綜企画設計・環境デザイン研究所・佐藤尚巳建築研究所・構想建築設計研究所JV)
三角広場の区民広場に劇場性
区民が参加し集まる「田園庁舎」を設計のコンセプトに据えた。敷地の三角広場を保全し、区民広場として進化させる。コーヒーショップや仮設の舞台が設置しやすい形とし、野外イベントの開催も想定。広場に劇場性を持たせる。
区民会館は、西側の敷地に、円形に再構築する。既存区民会館の印象的な外壁を継承するほか、西側の土地の高低差を利用して客席と舞台を有効に配置する。
駐車場は、計1万2560㎡の面積で、公用車は地下2階(170台)、来庁者は地下1、2階(計61台)に整備する。駐輪場は1950㎡で、地下1階、地上1階に計1050台分を整備する。
規模は、計5万7840㎡を想定している。
RIA・隈研吾設計共同企業体(アール・アイ・エー・隈研吾建築都市設計事務所JV)
前川建築の価値高める
「前川建築の価値を高める改修」を提案。第1庁舎は、耐震補強は内部のみで、意匠性は保存。設備システムの一新により、次の60年も十分施設の利用が可能と試算している。
敷地の西側には、区民共同棟と区役所本部棟を新築する。一方、東側は区民会館と区民ホール、第1庁舎とケヤキ広場の面積を最大限確保し、保存再生する。
施設規模は次のとおり。
▽本部棟=地下2階地上8階建て延べ2万2110㎡▽区民協働棟=地下2階地上6階建て延べ1万2905㎡▽第1庁舎=地下2階地上5階建て延べ1万1125㎡▽区民会館=地下1階地上2階建て延べ5630㎡▽広場=3490㎡。