戸田建設は、営業段階から設計、施工、維持管理に至るまで、一貫したBIMデータの活用に乗り出した。デジタル化した生産情報をフル活用する「生産プロセスのDX」と、基幹システムを変革する「営業のDX」を実現し、生産性の向上とデータドリブンの確立に結びつけることが狙い。建築DX推進室の鈴木隆史室長は「建築事業を深化するDXの基盤にBIMを位置づけている」と語る。
新築の設計・施工案件では基本設計の完全BIM化に取り組み、実施設計段階に設計と生産設計の両部門が協業するBIMデータ連携の試みもスタートした。建築設計統轄部BIM設計部BIM推進室の北川剛司室長は「施工段階にBIMデータを円滑につなぐため、より前段階から生産設計がスタートする枠組みが欠かせない」と説明する。既に20件のプロジェクトで取り組んでおり、2025年度中にBIMデータを引継ぐワークフローを構築する方針だ。
当初は、着工前のタイミングで設計・施工上の課題解決を行い、円滑な施工図作成と施工につなげるための部署としてフロントローディング推進課が参画していた。同課の田伏雅樹課長は「実施設計の段階からわれわれが参画する枠組みとすることで、施工の知見を設計側にも共有することができる効果が生まれている。BIMモデルを使ってレビューが実現できることも協業のしやすさにつながっている」と強調する。
協業は、設計室、生産設計課、フロントローディング推進課の3者が集い、BIMデータから施工図を出力している。ワークフローの構築では、業務分担に加え、設計側と生産設計側の必要な入力情報が異なるため、誰が何をどの段階で入力するかなど3者それぞれのデータ入力分担についても検証中だ。北川氏は「設計担当の意識改革を進め、設計業務にBIMを根付かせたい」と明かす。
同社がBIM導入に向けた検証を始めたのは06年。設計部門が先行して取り組んできた。設計から施工、維持管理までを見据えてBIMをデータベースとして位置付け、オートデスクのBIMソフト『Revit』の導入を推し進めてきた。24年からは設計と施工の担当者すべてがRevitを含むオートデスク製品を利用できる環境を整備した。鈴木氏は「これからはBIMデータを利活用するフェーズに入り、CDE(共通データ環境)の整備に乗り出す」と強調する。
CDE基盤にはオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付けており、既に運用を始めているが、現在はBIMモデルおよびそれに関連する図面だけをACCに格納している状況。北川氏は「今後は帳票類も含め関連情報を蓄積する。粒度が異なる情報をどこまでACC上で管理するか、実証プロジェクトの中で最適な枠組みを検証する」と明かす。
既に設計部門ではACC活用が先行しており、今後は施工部門の活用が動き出すことから、ACC操作研修もスタートする方針だ。田伏氏は「まずは現場など施工部門がクラウド環境に慣れることが重要であり、ACCに格納されたBIMデータを見るビューアの使い方から始めていく」と強調する。
教育については、設計部門では統轄部長や派遣社員も含めた対象400人に対して、Revitの基本操作やACC上でのデータ統合研修に加え、BIMのリテラシー教育も完了した。施工部門も対象となる200人に対してRevitの基礎教育を終えており、今後は教育を含めた協力事務所の利用環境も整備していく。さらに、オンラインでアドバイスする外部のヘルプデスクも設置した。
建築確認申請で26年春からスタートするBIM図面審査についても、既に法規チェック図や色分け図の対応に向けた社内ルールを確立済み。国土交通省からBIM図面審査のガイドライン案も示されたことから、北川氏は「社内ルールを最終調整していく」と先を見据えている。
月一回のペースで開いているBIM方針会議には設計、施工、DX、BIM推進、生産設計、積算など各部門から計15人ほどが参加している。鈴木氏は「ここでBIMデータ連携の共通課題を抽出している。既に15回を数え、お互いを指摘できる関係性が構築できており、『生産プロセスのDX』実現に向けて着実に歩みを進めている」と手応えを口にする。