【本】砂防の真髄が描かれた名著が140年めにして本邦初和訳出版! デモンゼー『渓流および山腹工事』 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【本】砂防の真髄が描かれた名著が140年めにして本邦初和訳出版! デモンゼー『渓流および山腹工事』

『渓流および山腹工事』プロスパー・デモンゼー著 
(一財)砂防フロンティア整備推進機構
監訳:西本晴男
翻訳:倉持紀子
発行:(一財)砂防フロンティア整備推進機構

翻訳の倉持紀子さん

 砂防の真髄が描かれた書とされながら、和訳版がなかったフランスのプロスパー・デモンゼー著『渓流および山腹工事(1878年)』。筑波大学フランス文学科の卒業生で、同大大学院環境防災学講座(砂防)に勤務していた倉持紀子さんに、同講座の西本晴男教授が翻訳を依頼。訳者と監訳の二人三脚で、2014年秋から取り組んできた。出版を迎え「貴重な機会をいただきとても感謝しています。砂防に関しては素人ですが、翻訳という形で少しでも役に立てれば光栄です」と話す。
 原著は、復刻版が出ていることが示すように、今も評価が高い。
 砂防学の権威・武居有恒京都大学名誉教授は、『日本砂防史』のなかで、デモンゼー著を「アルプス諸国の砂防に大きな影響を与えた」と評した。とくにオーストリアではこの時期、大規模な土砂災害が発生。その復旧にあたってフランスにその範を求めた。原著をドイツ語訳したゼッケンドルフ、日本に影響を与えた『砂防工学の基礎』の著者ワングがよく知られている。日本においても、東京帝大が砂防講座の担当教授としてアメリゴ・ホフマンを招へいしたことから、オーストリアの砂防を源流とするが、本(もと)をただせばフランスに行き着く。デモンゼーの著書は、世界で初めて砂防・治山技術を集大成した解説書だった。のちに同講座初の日本人教授となる諸戸北郎は、欧州留学中、ワングの教えを直接受けた。
 西本教授が訳書の出版を思い立ったのは、長野県の牛伏川本流水路が“フランス式階段工”と呼ばれるようになった由来にある。
 その階段工は大正期、長野県によって造られたが、設計を指導した内務省の池田圓男技師が参考にしたのが、ゼッケンドルフの著書にあったフランスのユバイユ川サニエル渓階段工の図だった。さらにその原図がデモンゼーの原著にあった。
 倉持さんはフランス留学経験があって、これまで英語の技術翻訳の経験や、環境防災学講座の事務を通じて砂防の大枠の理解はあったものの、「当初、1カ月で10ページしか進まなかった」という。それでも徐々にテンポが上がり、「2年はかかる」(西本氏)と目された翻訳を1年半で終えた。
 単語の意味、用語の解明にはインターネットが役立った。辞書に載っていない単語、辞書に載っていても文章だけでは理解しにくい用語などを、ネットの画像で確認。石積みの種類、植林方法、機具の特定やモノの仕組みの理解を助けた。ユバイユ川流域の砂防現場に足を運んだ西本氏の経験も適訳に生きた。
 原著では巻末にあった図版集の図を、それぞれ本文中の該当個所に配置したことなど、読みやすさを追求した数々の工夫によって、原著を超える便に供したと言って過言でない。

*和訳書はCD版。砂防フロンティア整備推進機構から申し込む。2000円(税・送料込み)。

アルプスに発祥した砂防の名著

 「原著は、編柵工を“生きている堰堤”と呼ぶなど表現が豊かであることや、植林においては子どもにも作業を与え賃金を細かく規定するなど、当時の作業者の労働状況が詳しく説明されている。また、フォコン渓における土石流発生時の目撃者の証言の部分は、刻一刻と迫る土石流から証言者が間一髪で逃れて避難する場面が生き生きと描写され、まるで物語を読むようでした」(倉持さん)

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