建設通信新聞

書籍案内
お申し込み ログイン
ヘッドライン
新着ニュース
  • 新着ニュース
    • 行政
    • 企業
    • 団体
    • 人事・訃報
    • インタビュー
    • その他
    • 北海道・東北
    • 関東・甲信越
    • 中部・北陸
    • 関西
    • 中国・四国・九州
    • 全国・海外
  • WEB刊
  • 動画 NEWS
購読お申し込み 書籍案内
    ホーム > WEB刊 > 公式ブログ > 【明日のパレット(5)】旅はいきなり/建築家 京都大学名誉教授 高松伸
公式ブログ

【明日のパレット(5)】旅はいきなり/建築家 京都大学名誉教授 高松伸

最終更新 | 2025/08/21 16:22

Facebookでシェアする
文字サイズ


 ほとんど常にいきなりである。忘れもしない2000年、深夜に一通のファクス。GEORGIA在住の富豪が「FORT」を建設する。ついてはその設計コンペに参加する意志はあるかと問うている。なに?砦(フォート)の設計?帯屋やお茶屋は設計したが城や砦はない。面白い!それにGEORGIAといえばれっきとしたアメリカではないか!…で、即答で同意書を返送した。これが厄災の火蓋を切ることになった。

 数日後、航空券が届いた。Georgian Airwayのチケットである。それはそうだろう。が、目的地がTbilisiとある。読めない。加えてイスタンブール経由。一度は行ってみたいものの、アメリカへの途中にわざわざ寄るか?…。などなどスタッフ総出でパニクッた挙句、わかった!GEORGIAとは「グルジア」(現ジョージア)の由!ソビエトの崩壊を機に独立し、その後のロシアとも骨肉相食む、あのアブナイ国である。

 とはいえ同意書には辞退は厳罰との明記。で一計を案じた。断じて指名されてはならじと、荒唐無稽言語道断の案を提出した。がしかし、豈(あに)図らんや、なんとこれが、かの富豪のいたくお気に召すことになった。れっきとした(?)建築家は諦めも早い。即刻、腹を括った。

 工事は陸軍。国が常時臨戦態勢ゆえ最先端の兵站(へいたん)技術を有し、兵士(現場作業者)の志気は極めて高い。これに助けられて3年。名銃カラシニコフで武装したSPに守られ(威嚇され)つつ宿舎と現場を往復することゆうに200回。難攻不落の砦(その実、富豪の別荘!)が完成した。さすがの仕上がりではある。とはいえ、その後二度とこの地を踏んではいない。君子厄災に近寄らず。ちなみに当の富豪は後に首相に就任し、「砦」は「首相官邸」と名を変えた。

ジョージア首相官邸


 閑話休題 そのいきなり(……)は酒席であった。二十数年ほど前、新宿の居酒屋で、かの代々木オリンピックプールの構造設計者川口衞氏と、カラオケの後の喉を慰めていた時のことだ。おはこの民謡をさんざんがなり立てた末に忘我に落ちたのか、はたまた私のど演歌に悪酔いしたのか、決して他人を褒めぬあの川口氏が、なんといきなりこう宣ったのである。「タカマツ!キミハスゴイ!…キミニ賭ケル!」と。

 ということで、翌日、川口氏と共同名義で天津市博物館のコンペにいきなりエントリーすることになった。厄災はだいたいこんなふうに始まる。ともあれ、提案に先立ち、まずは現地を訪れた。市政府役員の案内である。が、さんざん迷った末、広大な荒地に辿り着いた。挙句、当の役人は「たぶん敷地はこのあたり…ま、とにかくどこでもよい…好きにしてくれ…」と言い置いてとっとと消えてしまった。

 ポツンと残され、途方に暮れて天を仰ぐと、スモッグでよどんだ空に弧を描く白い鳥が一羽。で、好きにすることにした。「白鳥」をモチーフにした案を提出した。名付けて「SWANIUM」。どんな敷地にでも舞い降りることができる。きっと本当に敷地が決まってなかったに違いない。その案に白羽の矢が立った。事実、建設は訪れた地とは全く別の荒地で始まり、驚くべきことに原案のまま完成した。完成後「白鳥」のグッズがそれこそ飛ぶように売れるほど人気を博した。厄災転じて福となす…である。とはいえ、私には、二度とこの地、というかこの国を訪れることはないということが荒地を前にした時からわかっていた。

天津博物館(c)JeffreyCheng


 またしても閑話休題 そのいきなりの電話は、とっくに忘れてしまっていた青年、昔々ベトナム南端の都市計画コンペにあっけなく敗れてしまった時に通訳を勤めてくれた青年からであった。聞けばホーチミン市西の聖山で巨大な仏教施設の計画が進んでいたものの、クライアントが突然建築家をクビにしてしまった。ゆえにぜひとも私をクライアントに紹介したいとのこと。どことなく胡乱(うろん)な話である。厄災の臭いがする。とはいえ、胡乱にこそ機が在ることもまた大いに知るところではある。で、会うことにした。で、一気呵成に始まった。

ベトナム バデン山(C)SUN GROUP


 その後5年余、今もその厄災のただ中にある。ベトナム随一のデベロッパー軍団を束ねる軍師との不断の激闘という厄災である。ただしそのバトルは、新たなアイデアを生むための不可避の丁々発止であることを、ふたりともが存分に理解している。かつ、そのようにして誕生したアイデアが連綿と実現し続けている。そう、この厄災はつまるところ実に建築家冥利に尽きる厄災である。ゆえに私は、おそらく永遠に(?)このベトナムの地を踏み続けることになる。

 最後の閑話休題 私は旅を知らない。とはいえ、もし私にとっての旅があるとしたら、それはこんなふうな「旅」なのだ。だから、私の「旅」は、ほとんど常にいきなり始まることになる。
 
写真は全て高松伸建築設計事務所提供

 このシリーズは、建築家の方々に旅と建築について寄稿していただいています。次回は古谷誠章氏です。

 そのほかの回はこちら

 

【公式ブログ】ほかの記事はこちらから

建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら

公式ブログ 建設通信新聞購読お申し込み

関連記事

  • 【JIA建築家大会】「建築家と土着-グローカルに生きる」をテーマに5つのシンポ

    最終更新 | 2017-10-11 15:00

  • 【京都府すまいづくり協議会】和の住まい・リレーシンポ「建築家・大倉三郎と和の住ま…

    最終更新 | 2019-01-23 15:22

  • 【建築家・田根剛】一度だけの建築と旅/明日のパレット(1)

    最終更新 | 2025-04-23 13:10

  • 【建築家・山﨑健太郎】旅と建築/明日のパレット(2)

    最終更新 | 2025-05-14 16:16

  • 【明日のパレット(4)】心と心結ぶ目に見えない建築/建築家 小堀哲夫

    最終更新 | 2025-07-16 10:04

記事フリーワード検索

建設専門紙がつくる
工事データベース
建設工事の動きのロゴ
紙面ビューワ

本日の紙面

2026/03/17
key

3/11 更新!

  • 新聞の画像
    建設通信新聞
    月刊建設工事の動き
    見本請求
  • DIGITAL会員登録
    購読のお申し込み
  • 連載記事
  • 広告のご案内
  • リリースはこちら

公式SNS

アクセスランキング

  • ゼネコン/高水準維持も早期化の負担大/2年で1000人増

    掲載日|2026/03/07
  • 【消防庁舎を移転新築】大阪・池田市/計画短期方針に盛り込む

    掲載日|2026/03/09
  • 【ともに2万㎡、7月着工】江東区塩浜と千石にDC

    掲載日|2026/02/12
  • 【国内最大のウエーブプール】千葉・流山市で29年夏オープン、…

    掲載日|2025/08/22
  • 【霞が関・虎ノ門地区開発】A地区15.1万平米、B地区は26…

    掲載日|2026/03/11
  • 会社概要
  • サイトマップ
  • サイトポリシー
  • 特定商取引法表記
  • 個人情報保護
  • 行動計画
  • お問い合わせ
Copyright ©2012-2026
The Kensetsutsushin Shimbun Corporation.