建設通信新聞

書籍案内
お申し込み ログイン
ヘッドライン
新着ニュース
  • 新着ニュース
    • 行政
    • 企業
    • 団体
    • 人事・訃報
    • インタビュー
    • その他
    • 北海道・東北
    • 関東・甲信越
    • 中部・北陸
    • 関西
    • 中国・四国・九州
    • 全国・海外
  • WEB刊
  • 動画 NEWS
購読お申し込み 書籍案内
    ホーム > WEB刊 > 公式ブログ > 【明日のパレット(6)】建築家 古谷誠章/住む人々が生かす街
公式ブログ

【明日のパレット(6)】建築家 古谷誠章/住む人々が生かす街

最終更新 | 2025/10/16 12:14

Facebookでシェアする
文字サイズ


 旅先で不意に出くわす光景に驚かされたことは幾度もあるが、その中でもひときわ大きな衝撃を受け、その後も長らく考えさせられたものの一つが南部イタリアのマテーラの「石の街」の風景である。

 1987年の夏、スイスのマリオ・ボッタ事務所での文化庁の研修を終え、家族を連れてイタリア半島を車でひたすら南下し、シチリアを目指していた。2人の子連れで、下の娘はまだ1歳になって間もない頃だった。インターネットなどのない時代の旅だったので、新しい街に到着してホテルを探すのは午後4時を過ぎないようにと心掛けていた。前泊したポンペイから半島を横断して“長靴”のかかとに当たるアルベロ・ベッロに向かおうとしたのだが、いささか距離があり過ぎる。なんとなくその中間で目についた街がマテーラだったのだが、恥ずかしいかな僕自身はその名前を知らなかった。

 ホテルを見つけて車を停めて、まだ明るい夕暮れの市街に散策に出た。日中の火照りが和らいで日差しも傾いて街歩きにはちょうどいい頃合いだ。街そのものは比較的新しい大戦後のビルばかりであまり魅力的ではなかったのだが、ふと見ると街角のあちこちに「石の街?」みたいな案内表示がある。

 思わず興味を引かれて矢印をたどっていくと、突如として路地の先に大きなくぼ地のような古い街並みが広がっていた。すべて土地の石で造られていて、起伏のある地形全体が無数の石の家で埋め尽くされている。しかし、不思議なことにまったく人影がない、まるでゴーストタウンのような風景だった。

初めて訪れたマテーラ(1987年)


洞窟住居の上に積層する石の街(1987年)


 曲がりくねった小道を子どもを乗せたバギーを押しながら歩いていくと、不意に風通しのよい三叉路で数人の家族が夕涼みをしているところに出くわした。お互いにびっくりして、思わず向こうから声をかけられる。

 「一体お前さんたちはどこから来たんだね?」

 「日本からです」

 「そんなものを押して日本から来たのかい?」

 「いや今はスイスに住んでいて、旅行中この街に立ち寄りました」

地下の洞穴で作る自家製ワインの甕


 みたいなやり取りがあって、こちらが建築家だとわかると、彼らの住まいの中を案内してくれた。この街の歴史を聞くと、旧石器時代から人が住んだところで、街としても2000年くらい以前から続いたものだが、20世紀半ばに石の崩落の危険があるということで、市当局が住民を隣の土地に移転させ新しい市街を築いたという。さらに驚いた話は、住民のほとんどが引っ越した後、街は急速に崩壊し始めたというものだった。

 日本でも古い民家が空き家になると荒れて茅葺き屋根が落ちたりするのはよくあるが、まさか石の家がそんなにたやすく崩れるとは、思いもよらなかった。街の下層は古い時代からの洞窟住居で、かろうじて入り口だけが造られたもの。その上は地下から掘り出した石を積み上げて築いた家屋になっており、さらに街の最上層では付近の岩山から切り出した、やはり同じ種類の石でできたれっきとした建築群が立ち並んでおり、その積層するすべてが一望の下に眺められるという極めて特徴的な土地である。

 別れ際に一家の主人は階下の洞穴で作った自家製のワインと、子どもたち用にオレンジジュースをひと瓶ずつ分けてくれて、この不思議な石の街を引き上げた。

 帰ってからもどうしてこの街が崩れたのかという疑問が頭の中をぐるぐる回っている。そうしてある時はたと思い至った。石の街を生かしていたのは、そこに住む人々だったのではないか。住民が日々せっせと必要なものを運び込み、不必要なものを運び去り、雨漏りなどちょっとした不具合があれば補修をし、腐った窓枠や木の扉などは取り替えて、せっせとこの家を生かしていたのではないか。

再訪したマテーラ(2014年)


 それはあたかも人体をめぐる血液のようなもので、ヘモグロビンがせっせと酸素を運び、二酸化炭素や老廃物を排せつしていたように、人々が家々を生かし続けていたのだろう。人々の住まなくなった家や街は、もはや血の抜けた人体に他ならず、長く生きながらえることはできなかった。

人の住む気配のあるマテーラ(2014年)


 幸い、この街は現在では世界遺産に登録されて、今では旅行者や別荘を持つ人々などが戻ってきた。かつてと同じというわけにはいかないが、それでも人の生気の感じられる街の風景は、それだけで心和らぐ気がする。
写真は全て古谷誠章氏提供

 このシリーズは、建築家の方々に旅と建築について寄稿していただいています。次回は金野千恵氏です。

 そのほかの回はこちら

 

【公式ブログ】ほかの記事はこちらから

建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら

公式ブログ 建設通信新聞購読お申し込み

関連記事

  • 【JIA建築家大会】「建築家と土着-グローカルに生きる」をテーマに5つのシンポ

    最終更新 | 2017-10-11 15:00

  • 【京都府すまいづくり協議会】和の住まい・リレーシンポ「建築家・大倉三郎と和の住ま…

    最終更新 | 2019-01-23 15:22

  • 【建築家・田根剛】一度だけの建築と旅/明日のパレット(1)

    最終更新 | 2025-04-23 13:10

  • 【建築家・山﨑健太郎】旅と建築/明日のパレット(2)

    最終更新 | 2025-05-14 16:16

  • 【明日のパレット(4)】心と心結ぶ目に見えない建築/建築家 小堀哲夫

    最終更新 | 2025-07-16 10:04

記事フリーワード検索

建設専門紙がつくる
工事データベース
建設工事の動きのロゴ
紙面ビューワ

本日の紙面

2026/03/17
key

3/11 更新!

  • 新聞の画像
    建設通信新聞
    月刊建設工事の動き
    見本請求
  • DIGITAL会員登録
    購読のお申し込み
  • 連載記事
  • 広告のご案内
  • リリースはこちら

公式SNS

アクセスランキング

  • ゼネコン/高水準維持も早期化の負担大/2年で1000人増

    掲載日|2026/03/07
  • 【消防庁舎を移転新築】大阪・池田市/計画短期方針に盛り込む

    掲載日|2026/03/09
  • 【ともに2万㎡、7月着工】江東区塩浜と千石にDC

    掲載日|2026/02/12
  • 【国内最大のウエーブプール】千葉・流山市で29年夏オープン、…

    掲載日|2025/08/22
  • 【霞が関・虎ノ門地区開発】A地区15.1万平米、B地区は26…

    掲載日|2026/03/11
  • 会社概要
  • サイトマップ
  • サイトポリシー
  • 特定商取引法表記
  • 個人情報保護
  • 行動計画
  • お問い合わせ
Copyright ©2012-2026
The Kensetsutsushin Shimbun Corporation.