Arentが、上下水道分野に特化した申請図面作成CADソフト『申請くんfシリーズ』を展開するスタッグ(横浜市)を完全子会社化した。今年1月の構造ソフト(東京都北区)、3月のPlantStream(同港区)に次ぐM&A(企業の合併・買収)の第3弾となる。特色のある専門アプリケーション企業のグループ化によって建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の多様なニーズに対応しようと動き出したArentグループは、どこに向かおうとしているか。スタッグとの連携を通して、目線の先を追った。
Arentの鴨林広軌社長と、スタッグの石田泰三社長が面会したのは2024年9月だが、M&A仲介会社を通してArentからスタッグに相談があったのは、その半年前のことだ。「会社を買う選択肢はあったが、まさか買われることは想定もしていなかった。ずっと放っていたが、ある動きが状況を変えるきっかけになった」と石田氏は明かす。
申請くんfシリーズは、全国1741自治体の給排水、ガス、設備、本管工事の申請書類作成に対応し、ユーザーは全国で3000社を超える。常に使い勝手にこだわり続けてきた石田氏は数年前から図面作成を効率化する手段としてAI(人工知能)の導入に注目し、専門企業へのシステム外注やAIエンジニアの雇用も含め導入の可能性を探っていた。
「実は、ライバルのソフトがAI機能を先行導入することを知った。乗り遅れるわけにはいかないと思った時、Arentのことが頭に浮かんだ。すぐ仲介会社に連絡を取り、話だけでも聞きたい」と行動を起こした。その時はArentグループの一員となる思いはなく、業務提携などの関係性を探ろうと考えていたが、鴨林社長をはじめ、幹部との面会を通して「日本トップクラスの技術者集団であることが分かり、連携の形はどうなるか分からないが、一緒に成長したい」という思いを強く抱いた。
Arentは、国内の建設アプリケーション企業の中で有望な会社を100社リストアップし、M&A仲介会社などを通じてグループ傘下へのアプローチを積極的に進めている。鴨林氏はスタッグに対して「熱望する会社の一つ」という認識を持っていたが、石田氏が成長戦略としてAI機能への強い思いを持って面会に臨んだことは聞かされていなかった。「石田社長のユーモアを交えた話しぶりに魅了され、テンポ良くビジネスの話を展開する小気味よさにも引かれた。何よりもArentの技術力を高く評価してくれたことに感銘を覚え、私自身も一緒に成長したい」と強く感じた。
面会から3カ月後の24年12月には、Arentが協力する形で、申請くんfシリーズのAI機能開発がスタートした。年明けには試行版ができ、同時並行でマニュアル機能の強化とともに、営業体制の強化に向けた準備も動き出した。そのタイミングで石田氏はArentグループに加わることを自社の経営幹部に伝えた。最初はAI機能強化の外注先と受け止めていたArentグループに入ることに、全員が驚きを隠せない様子だった。「私が以前からM&Aをしたいと熱望していたことも混乱させた要因だったが、幹部の受け止め方はとても前向きだった」
今年5月に開かれたスタッグの定例会議にゲストとして招かれた鴨林氏は、Arentグループの成長戦略を説明し、スタッグと今後どのように歩んでいこうと考えているかを率直に伝えた。説明の場で「物おじせず質問を投げ掛けてくる一人ひとりの熱意こそがスタッグの原動力だ」と受け止めた。まさにArentグループの一員としてスタッグが力強い一歩を踏み出した瞬間でもあった。