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Zip Infrastructure(福島県南相馬市、須知高匡社長)が開発する自走式ロープウエー「Zippar(ジッパー)」に、想定を上回る反響が寄せられている。電車やバスの“隙間”を埋める新たな交通システムとして注目を集める中、当初想定していた公共交通用途に加え、空港や大規模商業施設、公園など私有地(公道外)での導入を検討する動きも広がっている。こうした多様なニーズを踏まえ、同社は新たに南相馬市内に「福島試験線」を整備した。商業運転を見据えた本格試験に踏み出した。 ジッパーは、道路上空を走行するロープウエー(索道)とモノレールの特徴を融合した新たな交通システム。低コスト・自由設計・自動運転を強みとし、モノレールの半分程度の輸送量を、約5分の1のコストと工期で整備できることを目指している。車体にバッテリーとモーターを搭載することで自走を実現し、直線部はロープ、カーブ部はレールを連続的に走行する仕組みとなっている。
2018年7月の会社設立当初から、その革新的な発想は業界関係者の注目を集めてきた。注目度がさらに高まったのは、設立5年後の23年7月、神奈川県秦野市の秦野試験線で公開されたプロトタイプによる走行だ。
当時須知社長が「実用化の一歩手前」と自信を見せたこのモデルは、洗練されたデザインと静音・滑らかな走行が印象的で、新たな都市型交通の可能性を示した。
今回整備した福島試験線では、商業運転に向けた本格的なテストを行う。既に道路橋示方書に準じた約40mのレール部の構築が完了した。今後、この部分で先行的に実施する試乗会などを経て、ロープ部約80mを追加整備し、来春には全長約120mの全貌(ぜんぼう)が姿を現す予定だ。
須知社長は「秦野で得た知見を反映し、支柱のサイズも実際の設置想定に合わせた。実用化に向けた評価を進めたい」と意欲を示す。
ジッパーへの関心は確実に広がっている。公表ベースで10を超える地方自治体が導入に向けた調査を進めており、それ以外でも「複数の空港や大型商業施設、公園などから問い合わせをいただいている」(須知社長)という。
一方で、同社は挫折も経験した。23年度に東京都が実施した「恩賜上野動物園における新たな乗り物」の企画提案に挑戦したが、結果は次点。須知社長は「安全対策など、お客さまの要望にとことん寄り添う必要性を痛感した」と振り返る。その一方で「他の提案企業などと互角に競えたことは自信になった」とも。
こうした経験を糧に、事業は着実に前進している。出資者やジッパー開発に携わる社員数も順調に増加しており、福島試験線の整備も徐々に形になりつつある。須知社長は「実装までの道のりの半分は来た」と手応えを口にする。
同社は、28年に私有地での運行開始、33年に公共交通としての運行実現を目標に掲げる。須知社長は「福島試験線をジッパーのファンづくりの拠点にしたい」と語り、多方面から寄せられる期待を力に、自ら描いた夢を着実に形にする覚悟を示した。
工事名「南相馬Zippar試験線工事」
施工:石川建設工業
















