【日本発 自走式の都市型ロープウエー】Zip Infrastructure代表取締役 須知高匡氏 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【日本発 自走式の都市型ロープウエー】Zip Infrastructure代表取締役 須知高匡氏

 日本発のベンチャー企業が世界の次世代モビリティー市場に切り込む--。神奈川県秦野市に本社を置くZip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー)は、自走式の都市型ロープウエー「Zippar」(ジッパー)の開発を進めており、年内にも8人乗りモデルによる試験走行を開始する予定だ。低コストや自動運転、自由設計、快適・安心走行などが売りで、既存の交通モードが抱える課題を解決する可能性を秘めている。開発段階にもかかわらず国内外からの引き合いが絶えないジッパーの魅力を須知高匡代表取締役に聞いた。

世界の渋滞問題の解決を目指す(整備イメージ)

◆「宇宙へ」の夢に向かって/予算に応じた延伸、ルート変更も自由自在

須知代表取締役

 現在25歳の須知氏は、慶大理工学部の機械工学科在学時に宇宙エレベーターの研究に取り組んでいた。大学3年生だった2018年7月に起業した。最初はワイヤロープを滑車で移動するジップラインを製作していたが、もともと乗り物好きだったこともあり、自走式ロープウエーの開発に乗り出した。「宇宙エレベーターの縦方向移動を横方向に落とし込んだのがジッパーだった」と振り返る。
 このアイデアに関心を寄せた技術者などが集まった。19年に小田原市で実施した1人乗りのプロトタイプの実験走行を皮切りに、21年6月に秦野市と「次世代交通システムの開発及びまちづくりへの活用に関する連携協定」を結んだ。この協定がきっかけとなり、同市内にある新晃工業の敷地に試験用地を確保することが決まった。
 本田技術研究所やJR東日本出身の技術者なども合流し、現在は8人乗りモデルの試験走行に向けた開発が佳境を迎えている。

試験走行に向けた準備が着々と進む


 ◆圧倒的な低コスト
 そもそもジッパーの優位性はどこにあるのか。一般的なロープウエーはワイヤロープとゴンドラが固定されている。このため、ワイヤロープとゴンドラの動きは連動し、軌道を自由に設計することが難しい。一方、ジッパーは機体そのものが動力を持つ。2本のワイヤロープや軽量鉄骨でできたレール上を自走するため、軌道を自由に設計できる。
 機体そのものは、市販の電気自動車をベースにしていることも特徴の一つと言える。須知氏は「簡単に言うとタイヤから上を切って下にゴンドラを付ける。シャーシがワイヤロープの上を走るイメージだ」と解説する。支柱も径50cm程度と占有面積が小さい。既存の交通モードでハードルが高かった用地取得の手続きを大幅に減らし、工期も短縮できる。ゴンドラへのソーラーパネル設置や支柱を活用したビジネス展開なども構想する。
 こうした構成により、ジッパーはこれまで実現できなかった都市交通の課題を解決するポテンシャルを持つ。既存のモノレールに比べて約5分の1という圧倒的な低コストを実現する。地盤の状況などで変動はするが、24基(1基/座り席で8人、立ち席で12人)のゴンドラと二つの停留所の合計で建設費は1㎞当たり約15億円と試算する。
 自動運転のため、社会問題となる運転手不足に悩む必要もない。また、本線から分岐・複線化もできる。例えば、特定のゴンドラだけをルート沿いの建物などに停留させることも可能だという。予算の状況に応じた延伸やルート変更も自由自在だ。

 ◆第一号線は上野も
 排気ガスが出ないため、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも注目を集めており、北海道から沖縄まで全国各地から引き合いがあるという。地方公共団体は特に関東地方が多く、複数の政令指定都市などと既に具体的な協議を進めている。原理的には電気自動車が走行できる距離を走れるが、想定延長10-15㎞の問い合わせが多くを占める。
 海外からの引き合いも多数あるが、須知氏は「第1号線は国内にこだわりたい」と力を込める。候補として、19年に運転を休止した上野動物園のモノレールの後継モビリティーなどを挙げる。
 一方、現段階で一つの懸念材料がある。法規制による制限速度の課題だ。ジッパーは「索道」として分類され、時速36㎞が上限となる。既に関心を寄せる一部の地方公共団体からは高速化を求める声がある。このため、法改正など国への要望活動を展開する考えも示す。

 ◆年内に試乗会開催
 須知氏は「われわれが提供したいのは観光用ではなく都市型のロープウエーだ」と狙いを定める。日本では観光用の乗り物のイメージが強いが、ボリビアなどの海外では従来型のロープウエーを都市交通として活用している。渋滞により、世界の都市部で年間26.7兆円超の経済損失をもたらしているとの試算もあり、マーケットは大きい。
 まずは8人乗りモデルでの試験走行を近く実施する予定だ。約200mの距離でスピードやカーブ、高低差の走行などを試す。その上で年内に関係者や報道機関などを招いて試乗会を開く。試乗会は一定期間、地方公共団体などを対象に実施する。25年までに第三者委員会から安全性などのお墨付きを得て、26年の第1号線開通を目指す。
 須知氏は「ジッパーを日本だけではなく世界中に作ることで渋滞を解決したい」と意気込む。最終的には「自走技術を使って宇宙に行きたい」と夢を語る。

■会社情報■
Zip Infrastructure株式会社
ホームページ:Zip Infrastructure株式会社- 都市型索道(ロープウェイ)
Zippar(zip-infra.co.jp)
住所:神奈川県秦野市菩提42-1
問い合わせ先:小野寺亘
onodera@zip-infra.co.jp



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