【YKKAP】多彩な研究者がさまざまな視点で歴史・文化を探求 窓学国際会議 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【YKKAP】多彩な研究者がさまざまな視点で歴史・文化を探求 窓学国際会議

日本でも人気の高いアルゼンチン出身のアーティスト、レアンドロ・エルリッヒ氏の新作も展示された。会場周辺の青山にかつて存在していたような看板建築の窓にはしごをかけ、地域の歴史への興味を呼び覚ますような仕掛けとなっている

 「窓は文明であり、文化である」--YKKAPの吉田忠裕会長が「サッシメーカーではなく、窓をつくる会社として、さまざまな方面から窓を学問的に探究したい」と思ったことから始まった「窓学」。ことしで10周年を迎えたことを契機に、記念事業の一環として「窓学国際会議」が開かれた。東京都港区のスパイラルホールを会場に延べ約1200人の聴衆が集まり、国内外のアーティストや建築家が窓にまつわる長年の研究成果を発表した。
 「Windowとは、壁に空いた穴という意味の言葉だった」とは、建築史家・建築家の藤森照信東大名誉教授。仏・ラスコーの洞窟や、豪州の原住民、アボリジニが土で作った住居の穴などを原初の窓とし、通風・採光や出入り口としての役割を果たしていたと説明した。建築の素人が建物に独創的な仕上げを施す「縄文建築団」など、独特の活動を展開してきた藤森氏。2016年に完成した「多治見市モザイクタイルミュージアム」(岐阜県多治見市)では建築の原点を意識し、タイルの原料となる粘土を切り出す採土場をイメージした小山のような造形の建物に、丸く小さな形の窓を開けた。「穴が分化し、窓と出入り口になった」とし「窓学は、原点に遡れば穴学になる」との考えを示した。

「窓学」の起源を論じる吉田会長ら(左から総合監修の五十嵐氏、吉田YKKAP会長、伊の建築家ミケーレ・デ・ルッキ氏、ランプニャーニスイス連邦工大教授)

 一方、建築構法を専門とする内田祥哉東大名誉教授は、日本における窓は「間・戸」(柱の間の通り道)が語源になったものであると指摘した。日本建築の特徴となる柱・梁構造は、桂離宮の松琴亭に見られるように、柱の間に何もない。「日本における窓の原型は、内外の空間に自由に行き来ができる、こうした空間ではないか」と述べた。また、家の構成要素である壁や板戸、障子などは、柱の間にはめ込まれた「柱間装置」として見ることができるとし、海外にはない発想として外国人建築家から注目されるなど「窓は日本と西洋の建築をはっきり分けるキーポイント」だとした。
 窓学の総合監修を務める五十嵐太郎東北大大学院教授は、窓はその時代の1つの象徴であり「さまざまな技術の進化の結節点として、位置付けられる」と強調。フランスで12世紀に建てられたシャルトルのカテドラル(大聖堂)では、小片のガラスをつなぎ合わせる技術と、フレームに金属を使うようになったことがきっかけで、「ゴシック調の壮麗なステンドグラスの窓が生まれた」とし、エポックメイキングな技術が窓を進化させると説明した。

展示風景(模型を用いた展示)

 五十嵐教授は、マンガ・広告・映画などの視覚メディアに描かれる窓についても言及。絵画の中の象徴的なイメージとして、窓の外を見る女性は「外の世界への憧れ」を、マンガ『ドラえもん』の中では、のび太とドラえもんがタケコプターで飛び出す「ファンタジックな出入り口」を表すとし、「窓の存在が物語を動かしているともとらえられる」と語った。
 槇文彦氏も登壇し、窓ガラスやサッシの進化が、建物のデザインをより自由にしたと論じた。パッシブデザインを取り入れた富山県黒部市での「パッシブタウン第2期街区」の設計では「従来の集合住宅よりも熱損失の少ない樹脂サッシと3層ガラスが使えるようになり、ガラス面が広がって、きりっとした外観デザインになった」。ロンドンに建設中の、アガ・カーン財団のイスラム教イスマイル派の教育研究施設では、2層のペアガラスと、極力薄くした高断熱サッシを採用したことで「財団の理念をたたえるにふさわしい、白く滑らかな外観を実現できた」という。
 今回の会議のために来日した、スイス連邦工科大のヴィットリオ・マニャーゴ・ランプニャーニ教授は「窓というテーマには、いろいろな広がりが見える」と話した。ドイツ建築博物館長を務め、建築家として活動しながら学術書の出版も手掛ける同氏は「窓を最初に発見したのは、詩人、作家、画家だ」とし、芸術家が窓の情景描写を通じて、さまざまな感情表現をしてきたことを指摘した上で「窓はひとつのオブジェというだけでなく、建築・芸術文化の両面で役割を担ってきた」と結論づけた。

◆作品や研究成果を披露

展示会場

 会場のスパイラルガーデンでは、多彩なアーティストや研究者らが「窓」にまつわる新作や成果を発表し、国際会議にも登壇した。
 建築家の塚本由晴東工大教授は「窓のふるまい学」と題して、有田焼の職人の仕事場や、島根県の干し柿小屋などを調査した結果を披露した。その作業に必要な光や風を取り込み、職人の居場所を心地良く保つ、さまざまな素材や形の開口部を取材。「地域の人が、身の回りの資源を生かしながら暮らしているのを観察することで、われわれの暮らし方にも提案できるものがある」と、その意義を語った。

建築的なアプローチで作品を製作する鎌田友介氏の新作

 建築史家の中谷礼仁早大教授は、日本建築の建具や空間が日常的にどう動き、使われるかを記録した映像作品を製作・展示した。木造軸組構造の柱と柱の間が日本建築の窓に当たり「障子などの紙の建具を入れて柱の間を区切り、外から内に多層的に展開することに美しさがある」という。

修道院の窓を室内ごと再現した写真家・ホンマタカシ氏の作品

 都市環境計画やパッシブデザインを専門とする小玉祐一郎神戸芸術大名誉教授は「地域の気候風土や文化と絡むもの」として、熱帯のガラスのない窓、寒冷地の常に閉じた状態の窓を示しながら「地球環境に配慮しながら、住居の快適性をどうするかが、今後の窓づくりの課題」とした。

展示関係者

 建築家の原広司東大名誉教授は、イソップ物語やアンデルセン、宮沢賢治らの文学に表現された窓の事例をもとに「孔は古くからあったが、窓自体は比較的新しい概念だ」とし、「使う人の物語を想像することは建築にとって重要」などと論じた。

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