【オーサカ建築〈戦後編〉】渡辺建築事務所設計の格調高い空間に触れて 茨木カンツリー倶楽部ハウス | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【オーサカ建築〈戦後編〉】渡辺建築事務所設計の格調高い空間に触れて 茨木カンツリー倶楽部ハウス

茨木カンツリー倶楽部ハウス

 「人々の心を引きつけ感動を与える元気な建築、社会が大きく変容し価値観が揺れ動く今日的状況の中でなお、われわれの代表作として時代に誇れる問題・話題作こそ入選に値する」。1988年の大阪府建築士会第32回大阪建築コンクールで松村慶三委員長が語った審査講評だ。
 この大阪建築コンクールで64年(第11回)に大阪府知事賞を受賞したのが茨木カンツリー倶楽部ハウス(茨木市、63年完成)。正面のしつらえは、いまも約50年前の完成当時と変わらず、伝統を醸し出しながらも控えめにたたずんでいる。格式高さは、外観や内部のデザイン性に富む設備、家具、調度品にとどまらず、細部まで神経を通わせたスタッフのサービスにも表れている。大林組による施工の健全性と品質の維持にも敬服する。
 同カンツリー倶楽部は関西の名だたる財界人や文化人によって1922年に設立された。ゴルフ場としては大変珍しく公益性の高い、いまでいう公益社団法人で、日本プロゴルフ選手権トーナメントを9回開催した関西最古の名門ゴルフ倶楽部である。その公益性(フィランソロピー)は、倶楽部ハウスにもにじみ出ている。
 この作品の設計は、渡辺節率いる渡辺建築事務所。設計者として田中喜蔵の名前が記されているが、デザイン性の格調高さや完成度の高さを見るにつけ、同クラブの会員でもあった渡辺節本人が設計に大きな影響を与えていることは容易に想像できる。現に、同倶楽部のホームページでは「渡辺節による設計」と記されている。
 なぜこの倶楽部ハウスは落ち着くのか、なぜ格調高い品性を感じ、完成当時からのデザインが維持されてきたのか。2016年にサミットが開かれた志摩観光ホテル旧館(三重県志摩市)でも同じような感覚を覚えた。同ホテルの設計は渡辺事務所出身の村野藤吾であり、建築に対する「真摯(しんし)で細やか」な姿勢は両者とも共通する。
 この倶楽部のコースは手作りで、微妙な地面の起伏(アンジュレーション)に彩られており、国内で十指に数えられるほど高い評価を受けている。私自身、30年ほど前に初めてスコア100を切った記念すべきコースであり、大切な場所の1つだ。
 ぜひここでプレー、いやコーヒーだけでもいい。茨木カンツリー倶楽部ハウスを訪れて「フィランソロピーに満ちたデザイン、雰囲気、スタッフ」に触れていただきたい。
(大阪府建築士会会長 岡本森廣)

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