【オーサカ建築〈戦後編〉】レンゾ・ピアノの滑らかにつながる大屋根空間 関西国際空港ターミナルビル | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【オーサカ建築〈戦後編〉】レンゾ・ピアノの滑らかにつながる大屋根空間 関西国際空港ターミナルビル

 国内外の来訪者を迎えるターミナル建築にとって、デザインはもちろんだが、それ以上に重要なのは分かりやすさである。初めての地に不安を抱きながら訪れた利用者が、安心して移動できることこそがターミナル建築の必須条件だ。
 1994年に完成した関西国際空港のターミナルビル(大阪府泉佐野市)は、1階から4階まで見渡せる吹き抜けを有し、水平方向にも空間が滑らかにつながっている。搭乗手続き、手荷物検査、出国検査、待合、搭乗といった一連の流れにおいて、大屋根の下のどこを通過しているか意識を持ちながら移動することができる優れたターミナル建築だ。
 この長さ1.7㎞もの壮大な大屋根は、イタリアを代表する建築家、レンゾ・ピアノのデザインによるもの。半径16.4㎞の緩やかな円弧を描いているのだが、まさに地球を意識するようなスケール感である。
 この壮大なプロジェクトを、ピアノは実に緻密に、大胆にまとめあげている。大規模な建築にとって重要なのはユニットをいかにつないでいくかなのだが、この展開が非常に優れている。同じように大屋根を持つ大阪駅では、同じ寸法のユニットをつないでいるが、関空の大屋根は湾曲しており、ユニットのサイズは一様ではない。たった20年前とはいえ、いまほどCADが発達していなかった時代。どれほどの意気込みでつくりこんだのか、敬服する。
 開港から20年が経過しているがまったく古さは感じない。まるで数年前にできたかのように存在している。これは、時の流れに耐えうる材料選び、ディテールのすばらしさの功績。わたしが常々思う「建築はその時代の技術を映す鏡」を体現する名建築だ。
 ターミナルビルの雄大な円弧、曲面に対しすっと空に屹立する管制塔。この対比も印象的だ。
 「ゆく河の水は絶えずして、しかも元の水にあらず、よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、ひさしくとどまりたるためしなし…」。旅客ターミナルビルを訪れるたび、方丈記にあるこのフレーズが頭をよぎる。ターミナルにはいろいろなところから人が集まり、人を待ち、人に出会い、そしてそれぞれの方向に散っていく。鴨長明の文意から逸脱するのだが、そのさまが方丈記を思い起こさせる。
(日本建築協会会長 設楽貞樹)

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