「実務では想定し得ない問題に直面する」--。新日本製鉄出身で、土木のアポロ計画とも言われた東京湾横断道路のアクアライン橋や世界最長の吊り橋、明石海峡大橋など大規模な鋼鉄製橋梁(鋼橋)事業に携わってきた中村俊一元東海大教授は、ベテラン橋梁技術者から若手技術者へのメッセージの口火を切る形でこう切り出した。21日に土木学会が開いた「若手技術者のための温故知新セミナー」での一コマ。
その上で若手技術者に対して「新しい技術・構造・工法などにチャレンジしてほしい」とエールを送り「そのためには、アイデア、根拠(解析・実験)、熱意が必要だ」と訴えた。
新しい挑戦に、アイデア、根拠、熱意が必要だと強調するのは、自らが関わってきた鋼橋の競争力向上へ「鋼橋最大の弱点をどうカバーするか」という自身が取り組んだ実体験が背景にある。具体的には、鋼橋の弱点である騒音と振動を低減させるだけでなく、コストや施工面での経済性も向上させるために取り組んだのが、CFT(コンクリート充填鋼管)を代表とする複合構造だ。
そもそも今回のセミナーの目的である、若手技術者への技術承継は、東京湾横断道路や明石海峡大橋といった世界に誇る世紀のプロジェクトに携わった技術者や技能者の知恵やノウハウなどが、同様のプロジェクトがないため世代交代時にも引き継がれない問題から、その必要性が指摘されてきた。
中村氏は技術・技能承継問題は発注者にも波及しているとして、「発注側の技術者が(補修・更新需要時期の)数十年先まで見ることはできない。インハウスエンジニアは外部のプロを使う専門家になるべき」との考えも披露した。