「建築をつくることは文化事業である。日本の建築にも文化的発信力があることを、パリで証明したい」。展覧会『安藤忠雄 挑戦』が、10日から12月31日まで、パリのポンピドー・センターで開催されている。日仏友好160周年を記念して開催している日本文化紹介事業「ジャポニスム2018」の一環として開かれているもので、安藤氏は「浮世絵や文楽、能などと並んで建築が紹介されることに大きな意味がある」と話す。
展覧会では、安藤氏の壮大な挑戦の軌跡と未来への展望を「空間の原型」「都市への挑戦」「風景の創造」「歴史との対話」の4セクションに分けて紹介。原寸大で再現した「光の教会」のファサードを掲示しているほか、模型やドローイングなどの設計資料を多数展示し、建築という文化の豊かさと無限の可能性を訴えている。
「少子高齢化は進行を続け、働き手は減る一方だ。誇りを持って働ける建設業、尊敬される建設業になれれば、自ずと働きたいという人は増えるのではないだろうか。建設業は誇り高い仕事であるという風潮をつくっていかなければならない。そして、売り上げ、利益ばかりにとらわれず、自分たちは文化をつくっているんだという気持ちで仕事に取り組まないといけない」と業界全体に呼びかける。
また、ポンピドー・センターの近くでは、18世紀末に建てられた穀物取引所『ブルス・ドゥ・コメルス』を現代美術館に再生する保存・改修プロジェクトも手掛けている。「施主のフランソワ・ピノーとは20年来の付き合いで、これまで3つの美術館をつくってきた。この旧穀物取引場は天井のステンドグラスや外観の丸いフォルムが素晴らしく、パリの観光案内書の表紙にも使われるほど誰もが知っているもの。再生計画は多くの市民の関心を集めている」
再生では、古い外観はそのままに、新たに内部にコンクリートのシリンダーを挿入。さらに、新たに地階を設けてホールを設置し、天蓋を改修する。「総事業費は140億円を超えるそうだが、フランス人の『誇りにかけてやる』という強い意志を感じる。古いものを活かす、周囲の街並みを活かす、施主の気持ちを受け止めることが大事だ」
「大阪では、昭和の初めに關一市長が周辺住民との話し合いの末、長さ4㎞、幅43mの御堂筋をつくった。それを見て『大阪はすごい街だ』と誇りに思いながら育ったわれわれが、魅力を次代につなぐものをつくる。大川・中之島一帯に3000本の桜を植樹した“桜の会・平成の通り抜け”などの取り組みもそう。歴史的に語り継がれたものを次の世代にバトンタッチすることが建築に関わる人間としての使命ではないか」と提言する。
展覧会のオープニングセレモニーには文化大臣を始めフランス政府の関係者が列席した。「フランスでは、建築は立派な文化事業である。日本でも、建設業が人々の生活をつくり、安全・安心をつくり、文化をつくる。働く者こそそう思える業界にしていかなければ、未来は見えてこない」