【作業の半分はロボットで】ビル新築工事で「スマート生産ビジョン」を発信 鹿島 | 建設通信新聞Digital

5月6日 月曜日

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【作業の半分はロボットで】ビル新築工事で「スマート生産ビジョン」を発信 鹿島

 鹿島の生産性向上に向けた建築技術の“総合デパート”とも言える現場が名古屋市内で稼働している。自社開発物件の「(仮称)鹿島伏見ビル新築工事」で、「作業の半分はロボットと。管理の半分は遠隔で。すべてのプロセスをデジタルに」をコンセプトに掲げる「鹿島スマート生産ビジョン」を社内外に発信する場として位置付けている。
 伏見ビルの現場に入場する技能者は、まず建設キャリアアップシステムと連携する顔認証システムを通過する。技能者カードをかざすタイプの入退場システム「イージーパス」と顔認証システムを連携させれば、小規模現場も含めた全現場に顔認証システムを導入可能だ。技能者の体調は「バイタルセンサー体調管理支援システム」で逐一、把握。現場事務所と職長は、現場の情報を写真と文字で共有できる「PitPat」を使ってやり取りする。
 鉄骨の溶接現場では、高度な技能が求められる梁下の上向き溶接をロボットが行う。「1人の技能者が2台を使えるようになると、実際の省力化につながる」(伊藤仁常務執行役員建築管理本部副本部長)だけでなく、「梁端拡幅部が不要にできるかも知れない」(同)という効果も期待する。
 作業環境が厳しい耐火被覆工では、多関節型アームロボットが自動で鉄骨上部に高耐熱粒状綿を吹き付ける。コンクリート押さえは、「Newコテキング」が活躍。生コン打設の現場では、脱着可能な充電池を搭載した「ウェアラブルバイブレータ」を着た作業員が手早く作業を進める。中腰での作業が多い鉄筋結束の現場で鉄筋工が装着しているのは「疲労軽減アシストスーツ」だ。

耐火被覆吹付ロボットが苦渋作業を担う

 外装の取り付けでは、ALC板、押出成形セメント板、アルミカーテンウォールに対応できる「外装取付アシストマシン」を作業員がジョイスティックで操り、4人が必要だった作業を2人でこなす。
 作業の半分をロボットが行うことを目標に掲げるものの、押味至一社長は「残りの半分は『人』がしなければならないというメッセージも込められている」と力を込める。ロボットを駆使して現場で高度な判断を下していく“将来の技能者像”に対して若者が魅力を感じてほしいという強い思いだ。
 現場事務所では、大画面モニターに「現場管理に必要な情報」(伊藤常務)がすべて映し出される。現場に設置した複数台のカメラやウェアラブルカメラからリアルタイムの映像が流れ、現場内を飛び回るドローンが巡回や点検、出来形確認のための映像を送り出す。手のひらサイズのドローンが現場内を巡回する日も近い。

大画面モニターに管理に必要な情報がすべて映し出される

手のひらサイズのドローンが現場を自動巡回

 鉄骨の建方精度は隣地のビル屋上に設置したトータルステーションが鉄骨のプリズムを計測して自動でモニタリング。搬送機械などに取り付けたビーコンで機械の位置情報や資材の過不足も把握し、不足資材を事務所員がモニターを見ながら調達する。
 鉄筋の組立図や加工帳は、BIMモデルから自動で作成。AR(拡張現実)で携帯端末に映した場所とBIMモデルを重ね合わせて、基礎配筋や設備機器の納まりを現地で確認し、技能者の安全教育や資材・設備の“もの決め”は、BIMモデルを使ったVR(仮想現実)で完成イメージを見ながら進める。

ARで配管の収まりを確認

 これら生産性向上に向けた建築技術の開発方針は「競争と協調」とはっきりしている。「品質を左右する技術は自社で開発する点は堅持しつつ、搬送などの周辺技術は、他社が開発した技術も含めて最も良い1つの技術に収れんさせ、大量生産で価格を下げる必要がある」(伊藤常務)という考え方だ。
 こうした技術のブラッシュアップで2025年に生産性30%向上を目標に掲げるが、当初、社内では「生産性を測る指標」が議論の的となった。作業員の生産性を把握できる過去のデータは残されていない。ただ、「何千という現場の労働時間のデータはあった」(同)。データを基に建物を21種類に分類し、建物種別ごとの延べ床面積に対する延べ労働時間(PI)を弾き出し、工事進捗に応じたPIをグラフ化。
 これをベースに全現場が目標のPIを設定し、入退場管理システムなどで把握した実際のPIと比較表示する取り組みを始めた。正確な歩掛かり把握が、建設業の生産性改革を大きく進展させる契機になる可能性を秘めている。

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