業界が連携、つながる時 オートデスク編 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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業界が連携、つながる時 オートデスク編

日本は新たなステージに

「日本は劇的な変化を遂げている」と語るアナグノスト社長兼CEO

 日本国内でBIMが注目された2009年のBIM元年から10年が経過した。BIMソフトベンダーのオートデスクにとっては、ユーザーである日本企業と密に向き合ってきた10年間でもある。同社のアンドリュー・アナグノスト社長兼CEO(最高経営責任者)は「劇的な変化を遂げている」と、日本のBIMの成長を実感している。今後どう進むべきか。同氏の目線を通し、日本におけるBIMの未来を探る。
 日本国内では、産官学が一堂に会し、ことし6月に発足した建築BIM推進会議を契機に、建築設計事務所やゼネコン各社がBIMへの対応を強める機運が高まり始めた。既に先行してBIM導入に踏み切っていた企業はアクセルをさらに踏み込み、これまで後ろ向きだった企業も「国が本気で動き始めた」ことを察し本格導入へと方針を転換する動きも出てきた。BIM元年から10年の節目に直面し、日本はこれまでより一歩踏み込んだBIMの新たなステージに突入しようとしている。
 アナグノスト氏が初めて来日したのは5年前のことだ。「当時は社を挙げてBIMにチャレンジする企業の姿はあっても、2次元設計を軸に置く企業がほとんどだった」。社内にBIMの推進チームを立ち上げる動きは見られたが、本流は従来システムから脱皮できずにいる状況が続いていた。「変化の兆しが出てきたのは、ここ1、2年のことだろう」。生産性向上が企業経営の重点テーマに位置付けられるとともに「民間建築プロジェクトの発注要件にBIMを位置付ける流れが徐々に出てきたことも要因の1つではないか」と分析する。
 設計の領域では大手建築設計事務所を中心に早くからBIMへの関心は高いが、大手ゼネコンがけん引する施工の領域では「専門工事会社などプレーヤーが数多く存在するため、まだ全体の動きとしてみれば、広がりのスピードがやや鈍い」印象を持っている。しかしながら「今後の日本は成長の道筋をしっかりと進んでいくだろう」と確信している。
 日本では、3次元の可視効果に終始していたBIMの時代を乗り越え、近年は属性情報を駆使しながら、全体最適を導く流れが色濃くなってきた。設計者も施工者も、川上から川下までの建築生産プロセス全体を通したBIM活用を志向する傾向が強まり、それが「BIMを次のステージに押し上げる」と言い切る。
 建築BIM推進会議では、BIM活用が社会資産としての建築物価値の向上につながると位置付けるように、建設ライフサイクルを見据えた視点をBIM活用の軸に置いている。アナグノスト氏は「日本はBIMという技術を扱うことはできても、全体が1つになれる仕組みがまだ整っていない。川上から川下までBIMという糸がつながらなければ、BIM本来の意味をなさない。大切なのは業界として連携し、つながり合うことだ」と焦点を絞り込む。

一貫BIM時代の到来/相次ぐパートナー連携

 オートデスクが日本企業とBIMについての戦略的ビジネスパートナーシップを締結してきた歩みは、日本のBIMの進展を如実に物語る。パートナーシップは単にBIMソリューションを企業側に提供する意味合いだけでなく、むしろ両社がともにBIMを軸に技術やノウハウを共有し合い、新たな生産手法や業務のやり方を確立する対等な関係が強い。
2014年8月にパートナーシップを締結した日本設計は、「BIMには無限の可能性があり、短い時間で最大限のBIM効果を得る上で、オートデスクの力が必要」と判断し、BIMを軸に設計ワークフローの改革に乗り出した。翌15年には大成建設がBIM普及に向けた内容で関係性を強化し、17年には日建設計やJR東日本コンサルタンツとも締結した。
 最近では18年に、建築部門の完全BIM化を目指して大和ハウス工業がBIMに関する包括的な契約を結んだ。ことしに入ってからは、17年にパートナーシップを結んだプロパティデータバンクと共同で、BIMと不動産経営・管理のデータを連携したアプリケーションを開発したことも特筆すべき動きの1つだ。
 各社に共通するのは、BIMの導入をきっかけに生産プロセスの改革を推し進め、より効率的な仕事のあり方を追求する流れをつくることだ。いわば生産性向上により働き方を改善する流れが、そこにある。ことし7月に来日したオートデスクのアンドリュー・アナグノスト社長兼CEOは、パートナー企業などに足を運び、日本における最先端のBIMに触れ、社を挙げて生産改革に乗り出す企業の狙いについても精力的に情報交換を行った。
 「世界のBIMの潮流はデータの統合化へと向かい、それによって従来の建築生産のプロセスや業務の仕方も大きく変わろうとしている」という同氏が日本における“好事例”と称賛する動きの1つが、大和ハウス工業だ。建設事業のライフサイクルを通じて川上から川下までを一気通貫でつなごうとしている同社の試みは「BIMを最大限に活用できる枠組みである」とし、「2次元から3次元に移行することがBIMではなく、建設プロジェクトをコントロールするプラットフォームの役割がBIM本来の姿である」と力を込める。
 国内では、大林組のように1つのデータを川上から川下までつなげる“ワンモデルBIM”に取り組む事例もある。設計から施工、維持管理までを視野に入れながら全方位で事業展開できるゼネコンは、BIMという枠組みを最大限に活用できる可能性を大いに秘めている。同氏が「一貫BIMを志向する日本は、今後大きな変貌を遂げようとしている」と評価する背景には、日本企業が単に設計や施工にとどまらず、BIMを事業全体の流れの中で位置付けている動きがあるからだ。

大和ハウス工業とパートナーシップを締結した

ものづくりは自動化へ進む/創造力で新たな手法導く

 BIMを活用した建設生産のあり方についても、海外は日本の一歩先を進んでいる。オートデスクのアンドリュー・アナグノスト社長兼CEOは「建設業のものづくりそのものが、製造業のように自動化へと進みつつある」と強調し「今後、日本の企業を新たな時代へと導くのが、われわれの役割でもある」と訴える。

2018年11月のAUで公開した建設向け「工具箱」

 2018年11月に米国・ラスベガスで開かれたオートデスクのユーザーイベント『AU(オートデスク・ユニバーシティ)』では、世界各国から最新のBIM事例が紹介されただけでなく、建設生産における新たな潮流についても垣間見ることができた。そこで同社は「建設の工業化」をテーマに開発した建設業向けの大規模な積層造形用「工具箱」を公開し、注目を集めた。製造業の発想を建設分野に取り入れることで、将来の新たな建設生産の道が開け、より多くのメリットを享受できるとのメッセージも発信した。
同社の試算によると、今後30年で世界の人口が100億人に到達した場合、天然資源は減り熟練労働者不足が社会問題化する。こうした環境下で人口増を加味すると、世界では50年までに毎日平均で1万3000棟もの建築物を提供する必要があり、現在の建築手法では不可能であると分析。建設業は製造業の考え方に学び、生産の最適化をもっと突き詰めるべきとし、オランダのValk Weidingグループが開発した積層造形手法の1つである指向性エネルギー堆積(DED)用のロボット技術を組み込み、高強度で使いやすい大型金属部品を生産できるコンテナを披露した。

オランダの指向性エネルギー堆積(DED)用ロボット技術を取り入れた

 オートデスクは将来の建設手法を考える際、重要な視点は単なる最適化ではなく、創造力であるとし、仮に建設現場に置かれた工具箱から、必要な時に必要な場所で鉄などの金属製大型パーツを製造する技術があれば「どう活用するかを創造してほしい」と呼び掛けた。工具箱内ではジェネレーティブデザインと積層造形技術を駆使することで、重量を落としながら施工しやすい「鋼鉄の蜘蛛」と呼ばれる専用コネクターをつくり出した。
 アナグノスト氏は「BIMの流れは施工のロボット化や自動化につながる糸口になるが、すべての建設生産がそうなるわけではない。重要なのはすべてのプロセスは細分化され、その中でより最適な部分、効率的な部分が自動化に向かう。それによって建設生産性の向上へ最適化が進んでいく。こうした生産性の成長はまさに製造業が歩んできた道筋である」と説明する。

建設ワークフローをつなぐ/統合管理へ3社買収

 オートデスクが提供するBIMソリューションは、どこに向かおうとしているか。アンドリュー・アナグノスト社長兼CEOは「1つのアプリケーションだけでは意味を成さない。企画から設計、施工、維持管理までの建設プロセス全体を通して管理する枠組みが重要であり、われわれは建設ワークフローのデジタル化と自動化を追求していく」と先を見据える。
 近年の同社は総額13億ドルを投じて建設テクノロジー関連会社3社の買収に成功した。「これらの技術は密接につながり、われわれのBIMソリューションに統合される。日本市場にも提供できるよう検討を始めた」と明かす。1980年代に登場したCADを出発点に建設分野のデジタル化は進展してきた。いまやBIMの登場とともに3次元設計の流れが広まろうとしているが、その先には「あらゆる場面のアプリケーションを統合する時代が待っている」と力を込める。
 買収3社は、まさに「つなぐ」役割を担う。同社が提供する建設ワークフローのクラウドプラットフォーム『BIM360』に管理機能の技術を提供する「Assemble Systems」を2018年7月に買収したことを機に、入札管理プラットフォームを運営する「BuildingConnected」、建設プロジェクト支援プラットフォームを提供する「PlanGrid」と立て続けに傘下に収めた。「プラットフォーム、コスト予測、現場管理というテクノロジーを加えた効果は大きい」と手応えを口にする。
 その中でも8億7500万ドルという同社最大の買収となったPlanGridは、オーナー、ゼネコン、専門工事会社などプロジェクト関係者にリアルタイムな情報共有や共同作業を支援しており、世界中で1万2000者を超える顧客が利用していた。BIMを成功に導くIPD(インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)の手法を実現するには利害関係者の合意形成がかぎを握るだけに「より大きな投資効果を期待する」と考えている。
 これまでは、同社の代名詞でもある『AutoCAD』やBIMソフト『Revit』など個別ツールの機能強化に力を注いできた。建築生産プロセス全体をつなぎ、関連した情報を統合管理するプラットフォームの構築には、生産にかかわるソリューションだけでなく、営業部門や管理部門も含め企業経営全体をコントロールする枠組みまで視野に入れる必要がある。
 欧州ではまちづくりの手段としてBIMがベースになり、そこに建設される構造物の生産だけでなく、再生エネルギーの利活用、さらにはコミュニティーのあり方までアルゴリズムを使って最適解を導き出す事例もあるという。アナグノスト氏はBIMの未来について 「データの統合化へと向かう」と訴える。

「Assemble Systems」「BuildingConnected」「PlanGrid」の3社が持つテクノロジーを追加する

創造は建設業を成長に導く/AUJセッション 前年比4倍増

 10月9日に東京・台場のグランドニッコー東京で開かれるオートデスクのユーザーイベント『Autodesk University Japan』(AUJ)では、同社ユーザーの最新事例が一堂に会する。建設分野に加え、製造業分野、メディア・エンターテインメント分野などに幅広くソリューションを提供する同社にとって、建設分野は最重点分野であり、セッション数も前年比の4倍に増やした。
 建築設計事務所では日建設計、佐藤総合計画、三菱地所設計、大建設計など、建設会社では清水建設、大林組、竹中工務店、長谷工コーポレーション、東急建設、奥村組、矢作建設工業、大和ハウス工業など、建設コンサルタントでは八千代エンジニヤリング、中央復建コンサルタンツ、JR東日本コンサルタンツなどが実プロジェクトで展開する最新の取り組みを紹介する。

AUJではユーザーの最新事例が集結

 AUJテーマの「創造の未来」は、同社が掲げるコーポレートメッセージであり、各分野に通じる生産プロセス改革の先にあるキーワードでもある。分野を問わず、現在の生産現場では仕事の進め方が劇的に変化しようとしており、建設分野も例外ではない。3次元の設計時代が到来し、モデルに蓄積された属性情報を最大限に活用することで、生産効率化や品質向上、さらには生産プロセスの改善によって働き方の改革も実現しようとしている。
 同社は生産改革を創造のプロセスと位置付け、「単純で直線的なパスから、入力とフィードバックの統合サイクルへと進化する」と説明する。つまり、創造の未来には「統合化」の流れが前提になるという。アンドリュー・アナグノスト社長兼CEOは「これはまさにビジネスを成功に導くテーマでもあり、建設業の成長は製造業のように自動化のプロセスを踏んでいくことは明らか」とし、「今後重要なのは業界自体の議論をもっと深めるべき」と訴える。
 BIMの向かうべき未来はプロセスの統合であるとの観点に立ち、何が障害であるかを突き詰める中で、結果的には一企業だけでは乗り越えられない壁が存在する。「業界として変えていく流れをつくることが大切であり、それが現在の生産に潜む無駄を省き、自動化の道を切り開く流れになることは間違いない」とし、日本で産官学が連携した建築BIM推進会議が発足したことも「大きな一歩」と力を込める。
 アナグノスト氏は、企業競争力の観点でもBIMの重要性を説く。「海外プロジェクトでは、他国のライバル企業がBIMを自在に使いこなしている。日本企業も一刻でも早くBIMを自分のものにしてもらいたい。それが大きな企業競争力を生むはずだ」。オートデスクの導く創造の未来は、建設業の成長へと続いている。