【1000年後を見据えた建築を】JIA環境会議が座談会 5人の建築家が「記憶を繋ぐ」をテーマに議論 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【1000年後を見据えた建築を】JIA環境会議が座談会 5人の建築家が「記憶を繋ぐ」をテーマに議論

 日本建築家協会(JIA)環境会議は、青森県弘前市内で環境座談会を開き、針生承一氏(針生承一建築研究所主宰)ら5人の建築家が「記憶を繋ぐ」をテーマに、自然や文化、まちなみ、建築など、人の記憶に残すべき環境などを建築家の視点から議論した。
 「JIA建築家大会2019青森inHIROSAKI」の一環として催された座談会では針生氏を始め、小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所代表)、関谷昌人氏(PLANET Creations関谷昌人建築設計アトリエ)、新居照和氏(新居建築研究所)が登壇し、宮田多津夫松田平田設計取締役が進行役を兼任した。
 このうち、針生氏は生まれ故郷の宮城県名取市で設計した斎場が東日本大震災の津波で被災した状況や、震災後、同市に提唱したまちづくり計画「閖上ルネッサンス計画」を紹介。さらに、山形県酒田市で手掛けた斎場は、高さ10mの津波が発生しても300年以上前に整備された松林によって津波が減衰されることを説明し、「宮城県松島町ではたくさんの浮島があったおかげで、津波からの被害を抑えることができた。津波は防潮堤などの壁で耐えるのではなく、多孔質体で減衰させるべきだ。震災を経て、多くの堤防がつくられる中、建築側の視点からみた取り組み、地形を大事にしたまちづくりをもっと提案すべきだった」と自然を生かしたまちづくりの重要性を強調した。
 小堀氏は、ギリシャの無人島・デロス島内に残されている都市の痕跡をみると、山頂にシンボリックな神殿があり、そこから参道、街並みの順に形成されていたことを説明。その上で「古来は地形に寄り添いながら、建物を軸にまちがつくられていたが、近代では管理しやすいように道路からつくられるように変わってしまった。改めて都市の成り立ちから建築を組み立てていくべきだ」と持論を展開した。
 関谷氏は、京都市内で手掛けた古民家の改修事例を紹介。住んでいる高齢者が利用しやすいように配慮しつつ、地域の気候・風土に適用するようつくられた既存の建物をなるべく生かすことで、長年地域に馴染んできた景観・住まいとしての記録を残そうと試みたことを報告した。新居氏は、インド建築や剣山系高地性集落などの調査を踏まえ、厳しくも恵みを与えてくれる自然に対して人がどのように向き合い、生活の場を構築してきたかを説いた。
 宮田氏は熊谷ラグビー場(埼玉県熊谷市)の全面リニューアルについて「建築をつくるには経緯がある。古いから解体して建て替えるのではなく、競技場に染みついた伝統や遺産を大事に引き継いで記憶を積み重ね、人と建築のあり方を考えた」と語った。
 座談会の最後に針生氏は「さまざまな計画により、地形が壊されている。それが1000年後にはどう評価されるのか。われわれは責任を取れる建築を考えていかなければならない」と締め括った。

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