「キュレーション(鑑定)とアーカイビング(分類)とクリエーション(創造)は一体のもの」と語る建畠氏は、こうした「発熱する資料体」を形づくっているのは「混沌(こんとん)とした展示方式」にあるという。建築倉庫ミュージアムでは建築模型を年代や用途、規模などで分類せず、収蔵した順番で展示する。事前の収蔵計画がない無秩序な展示方式だが、詳細な情報は模型に隣接するQRコードにまとめ鑑賞者が自由に情報を収集できる体制を整えた。
建築模型には鑑賞、プレゼンテーション、デザインの試作などの役割があるが、建築倉庫ミュージアムはそれらの役割を果たした模型をすべて受け入れる。「目の前は混沌としているが、コンピューターで好きなだけ情報を組み替えるアーカイブの多様性を許容している」ため、鑑賞者の創造性を強く刺激する。「アナーキーな美術館だが違和感がない。(模型への)フェティシズムや分類を捨てた最先端のアーカイブ」だったと驚きを口にする。「美術館は本物を見る場所だが、建築は本物を見ることはできない。しかし、模型でしか成立しないコミュニケーション、図面や写真とは異なる模型の力があった」とも。
多くの建築模型が鑑賞者の創造性に影響を与える一方で、丹下健三や伊東豊雄氏らの近現代建築資料の海外流出は深刻な問題だ。プロジェクトが終了すれば事務所の奥でほこりを被る建築模型も、海外なら美術品と同じように売買取引が交わされるのが通例だという。そのため、「このままでは日本建築を海外でしか学べなくなるかもしれない。アーカイブをもう一度見直す時期がきている」と危機感を募らせる。
三宅氏も、「模型は資料だが、死んだモノを学ぶ資料ではない」とした上で「模型によって自分にできないことを学び、後世に引き継ぐことができる。建築分野の学芸員育成が急務だ」と指摘する。建畠氏は「日本建築は世界的にも注目を浴びているが、アーカイブ化やアーカイビングを進めるための教育がない。(建築文化の保存には)この分野の人材育成にさらに力を入れる必要がある」と力を込めて語り、建築倉庫ミュージアムの今後の取り組みに大きな期待を寄せた。