【防災・減災に自然の機能が貢献】日建連がグリーンインフラ調査報告 見えてきた課題も | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【防災・減災に自然の機能が貢献】日建連がグリーンインフラ調査報告 見えてきた課題も

 日本建設業連合会の土木工事技術委員会環境技術部会は、グリーンインフラに関する調査報告書をまとめた。グリーンインフラストラクチャーに対する定義が世界的に明確化されていない中、同報告書では「自然の持つ多面的な機能や仕組みを、社会資本整備や土地利用等に賢く活用することで、地域の課題解決に貢献し、社会・経済・環境の側面から利益を提供する、持続可能な国土・地域づくりの手法をグリーンインフラストラクチャーという」と定義し、建設業が取り組む上での先進事例、要素技術などを紹介している。

 定義の「自然の持つ多面的な機能」は、防災・減災(治水、土砂災害防止、津波・高潮被害低減、防風、雪崩防止、延焼防止など)や環境保全・改善(生物の生息・生育場の提供、ヒートアイランドの緩和、水質浄化など)、地域の魅力向上・振興(コミュニティー形成、景観向上、資産価値の上昇、雇用創出、食料生産など)、健康・文化への貢献(レクリエーション、環境教育の場の提供、健康増進など)を指す。

 多面的な機能性を始めとするグリーンインフラの概念は、自然災害や気候変動、環境保全、既存インフラの維持更新、人口減少・高齢化への対応、欧米・新興国のグリーンインフラの普及、グローバル社会の都市の発展、SDGs(持続可能な開発目標)・ESG(環境・社会・企業統治)投資との適合性の観点から急速に広がっている。ただ、コンクリート構造物などの「グレーインフラ」を否定するものではなく、それぞれの機能を有機的に組み合わせて地域の価値を向上させようとする考え方である。

 具体的な取り組みでは、▽雨水を緑地で貯留・浸透=レインガーデン、バイオスウェイル、透水性舗装▽平常時は土地を活用し、大雨時に雨水を一時貯留=流水型ダム、遊水地、田んぼダム▽土砂や流木をせき止め、土石流の被害軽減=透過型砂防堰堤、棚田▽樹林で風水害などの防災・減災=水害防備林、防風林、落石・雪崩防止林、防雪林▽樹林による大規模火災の延焼防止・火災旋風の被害防止=街路樹、公園緑地▽洪水などリスクの高い土地の利用を避け、リスクの低い土地に集約=事前復興–などを例示している。
 また「奥山・里山・里地」(12事例)、「水辺」(同)、「都市・まち」(14事例)、「海辺」(9事例)のエリア別の先進事例を掲載する。

バイオスウェイル(道路沿いの緑地で雨水排水を一時的に貯留し、流出を遅らせたり浸透させ、洪水を防止)


 広島県北広島町の芸北せどやま再生事業(山林の整備・管理)や、栃木県日光市の足尾荒廃地の緑の復元(特殊荒廃地の緑化)、神戸市~兵庫県宝塚市にかかる六甲山系グリーンベルト整備事業(山林の整備)、島根県益田市の益田川ダムと鹿児島市の西之谷ダムで実施する流水型ダム、新潟県の田んぼダム、渡良瀬遊水地湿地保全再生事業(遊水地の拡大)、横浜市の鶴見川多目的遊水地などの国内事例を盛り込んでいる。

 このほか、オランダのルーム・フォー・ザ・リバープログラム(氾濫原の再生)、シンガポールのビシャン・パークにおける都市型河川公園整備(多機能型の都市型河川公園)、米国オレゴン州ポートランド市の都市緑化・雨水浸透施設を活用した洪水対策などの海外事例も対象とする。
 これら事例を実現する上での要素技術として、谷止工・ミニダム、多自然川づくりの護岸工、土留工・石垣、河畔林(樹冠被覆)、植生土のう筋工、原地形に基づいた多様な水辺空間の創出、航空実播工、緑化屋根、獣害対策工などの94技術を紹介している。

水害防備林(川沿いの樹林により、洪水時に流木や土砂等が背後の家屋や農地等に流入する被害を防止)


 一方、いくつかの課題を挙げている。現時点ではグリーンインフラの技術指針が確立されておらず、多面的な機能に関する効果の定量的な指標・評価手法が固まっていないため、公共事業などで普及しにくいという側面がある。特に自然災害に対する防災効果、安全性への技術指針が不可欠となる。

 グリーンインフラは時間の経過とともに機能が向上し、永続的な利用が可能であるため、イニシャルコストとランニングコストは掛かるものの、更新が不要との特徴がある。その上で、グリーンインフラへの長期的な多面的効果の評価と、多様な受益者が適正かつ公平に負担する金融的な新しい仕組みが必要と指摘する。
 地域的には河川支流の洪水対策の恩恵を河川本流の都市で受けるようなケースがあり、税収を含めた費用負担のあり方もグリーンインフラ普及の障壁となっている。

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