【実務の可能性広げる】竹中工務店が環境デザインに活用の"点群データ" そのメリットとは? | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【実務の可能性広げる】竹中工務店が環境デザインに活用の”点群データ” そのメリットとは?

 “点の集合体”によって現況(原寸)を正確に表すことができる「点群データ」。これを建築の生産プロセスだけでなく、建物の周辺を取り巻く将来的な空間・環境デザインに生かす、そんな野心的な取り組みが進んでいる。現況を正確に表す「計測」技術に、将来の変化(予測)を組み込んでいくことで、点群データの活用の幅はますます広がっていくことになる。

鉄骨フレームの製品検査(イメージ)


 取り組みのフィールドとなっているのは、竹中工務店が設計施工を手掛けたメルセデス・ベンツ日本の体験型の展示施設「EQ House」(東京都港区)。“未来の建築”として設計・施工・維持管理にBIMをフル活用。IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)など最先端の技術をふんだんに導入したことでも注目を集めるプロジェクトだ。

環境シミュレーション(イメージ)


 木漏れ日のような光が注ぎ込んでくる特徴的なデザインは、工場で製作された鉄骨フレームと、1つとして同じ模様がない1200枚ものアルミパネル(外装)によって実現。それは竹中工務店にとっても未来の建築を先取りするような意欲的な“作品”となった。

 実際に工場で製作した鉄骨フレームの製品検査や現場での進捗管理(出来形管理)に3次元レーザースキャナーによって取得した点群データの活用を試行。点群データを用いた“差分比較”によって効率化と透明性を確保した。

 技術研究所先端技術部デジタル生産グループの染谷俊介研究主任が「点群データは正確な“原寸”であることが最大のメリット。それを生かした使い方を進めていくことが重要になる」と話すように、通常は人がスケールを使って寸法を計測する鉄骨の製品検査に点群データを活用。検査の効率化と“原寸データ”による透明性の確保を両立させた。

染谷氏


 工場にハンディー型の3次元レーザースキャナーを持ち込んで製作された鉄骨フレームを計測。取得した点群データを設計モデル(BIMモデル)と重ね合わせることで、鉄骨フレームの精度を確認する一方、現場でも進捗管理を目的に1カ月ごとに現場の点群データを取得(定点スキャン)。差分比較によって進捗管理を効率化した。

 「考え方は非常にシンプル。差分を比較することで、除去されたものと新たに立ち上がったものが一目瞭然となる。出来形を見える化することで出来高の査定を透明化することができる」(染谷氏)。

 “原寸”である点群データを生かした試みとして、光や風の動きを把握する「環境シミュレーション」にも取り組んだという。

 実際に敷地に植えられていた樹木の点群データを取得して、そのレイアウトを組み替えることで光や風の動きを把握。「木漏れ日の下でそよ風が吹く」という快適な状況をつくり出すことにチャレンジした。

 東京本店設計部の花岡郁哉設計第2部門設計4(アドバンストデザイン)グループ長は「点群データの使い方の1つとして、ランドスケープのデザインに適用できることが確認できた」と振り返る。

花岡氏


 「日照条件などで樹木がどう成長するかといった属性を取り込んでいけば、5年後にどう育っているかという時間的なデザインも可能になる。風が建物の中を吹き抜けてランドスケープとしてどう展開するか。いわばランドスケープ的なデザインと建築的なデザインをセットでデザインできる世界が広がっていく」(花岡氏)と見通す。

 とはいえ、現況を正確にスキャニングできる技術として、伝統建築の保存や改修工事における現況測量など、その活用に大きな注目が集まっている点群データを“使いこなす”ための課題は多い。取得したデータを用途や目的に合わせて処理・変換する作業が伴うからだ。

 点の集合体である点群データは「そのままだと使いにくい。例えば、点群をモデル化するためにソフトウェアを介した処理を施す必要があるが、用途によって処理の方法や組み合わせは多岐にわたる。この“後処理”が難しいところ」(染谷氏)だという。

 実際に「実務ベースで“使える状態”に処理する部分が重要。技術研究所は実務との連携を意識しているからこそ、それに合わせたデータの取得や処理をしてくれる」(花岡氏)というように、用途や目的に合わせた点群データの取得・処理のあり方が今後の活用の可能性を広げていくための重要なキーポイントになっている。

点群データ活用のフィールドとなった「EQ House」

■ひと口メモ
 工場で製作した鉄骨の製品検査や現場の進捗管理(出来形管理)で一定の有効性を確認したが、例えば、取得した鉄骨フレームの点群データと設計モデル(BIMモデル)とのレジストレーション(ずれをなくす精密な位置合わせ)は“手動”であるというのが実情。今後の幅広い活用・展開へ、点群データからの自動モデリングや自動レジストレーションへの期待は大きい。

 現状は点群データをシステマチックに活用するためのヒト・モノ・仕組みが成熟していないため、竹中工務店としても、鉄骨の製品検査などに活用できる業務支援システムの開発など点群データを幅広く活用するための「一般化」と、高度なアルゴリズムを用いて自動で精密な位置合わせを可能にする新たな技術の開発など、より「最先端の活用」方法を模索する2つの戦略・道筋を描く。

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