【経営軸線・X1Studio】世界最先端のビルテクノロジーを日本へ ウィリアム・アチュリ社長 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【経営軸線・X1Studio】世界最先端のビルテクノロジーを日本へ ウィリアム・アチュリ社長

 

IT、IoT(モノのインターネット)に関わる設計から施工、サービスまでを一気通貫で手掛けるため、2020年9月に設立した「X1Studio」。「いまでもまだ『テクノロジーの設計事務所とは何ですか』と聞かれることはあるが、その必要性や理解もだいぶ浸透してきた」とウィリアム・アチュリ社長は実感する。スマートビル分野で同社が手掛けるソリューションは、会社設立からわずか1年にもかかわらず、スーパーゼネコンや設計事務所などからも一目置かれる。どのようなソリューションを展開しているのか、ウィリアム社長に聞いた。

 

William Achury CEO

1998年来日、2008年4月から20年6月まで「株式会社Sanko IB」の代表取締役として12年間務めた。主に商業ビルのIoT化やデータセンターの構築、ホテルなどのスマート化など業界での経験を幅広く持つ。20年9月に「X1Studio株式会社」を設立。使用言語はスペイン語、英語、日本語のトリリンガル。南米・コロンビア出身、50歳。

 

◆IoT、クラウド、AI駆使してESCO/GRMSでホテルの課題も解決

–X1Studio設立の背景を
「この業界に入って感じたのは、3つに隔てられた日本の建設事業の各分野が優秀だということ。日本の建設会社の技術は世界的に優れ、設計事務所も空間や環境のデザインが素晴らしい。システムインテグレーターは、ネットワーク関係に強い。しかし時代とともにテクノロジーは進歩しているというのに、それぞれの分野が縦割りであることや、使用するプロトコルが異なっていることなどを背景に、スマートビルディングを実現するためのテクノロジーをうまくつなぎ合わせることができていない」
「設計、施工、システムをつなぎ、デバイスやデータなども最適につなぎ合わせるため、私たちが3者の真ん中に入って『テクノロジーを設計』しなければならない。そうした思いで事業を始めた。当社は『テクノロジーの設計事務所』。スマートビル化するためのテクノロジーやスマートビルでのユーザー体験、オペレーションの効率化などを考え設計している」

–提供中のソリューションは
「現在は、建物に入ってるシステムとデバイスがインターネットでつながるIoT、クラウド、AI(人工知能)が駆使できる状況になっている。この3つを合わせた新しいソリューションの1つとして、『ブレインボックスAI』を初期導入費用が無料のESCO事業として展開している。建物の中で最も電気使用量が多いのが空調だ。ここにブレインボックスAIの機器を取り付け、AIによる空調管理で電気代を25%削減し、CO2の削減も可能になる」
「その仕組みは、AIが空調に関する建物の特徴を学習し各建物に最適な空調設定を見つける。学習したデータや他の建物管理システムのデータ、天気情報などを基に建物の環境変化を予測する。例えば、3分後に太陽がどういう入射角で部屋に入ってくるのか、雲で日射が遮られるのかなど状況を予測しながら、空調システムを5分ごとにリアルタイムで制御できる」

 

ブレインボックスAIのネットワーク構成イメージ

 

–商業ビル以外での取り組みは
「客室制御システム『myRoom』の提供を日本で始めた。海外ではゲストルームマネジメントシステム(GRMS)と呼ばれ、客室内のすべての設備とホテルシステム、そして宿泊客を連動して管理できるシステムとなっている。宿泊客が初めて部屋に入った時には、電動カーテンを開けてウェルカムシーンを演出し、在室時には最適な空調や照明に制御、不在時には使用を制限することで、自動的に快適な空間を実現する。電動カーテンは不在時には閉めて、熱が逃げるのを防ぐなど省エネルギーにも役立つ。自動化は、そのホテル特有の体験をオペレーターの手間をかけることなく、世界各国どこででも同じ体験を提供できる。このため、ホテルオペレーターがサービス品質を担保することを目的に導入する事例が増えてきている」
「さらに、このシステムは泊まる側、ホテルで働く側の双方にとってもメリットがある。多言語対応のアプリケーションやIPTVを使用し、宿泊客は日本語などを気にせずストレスなくタクシーの手配や各種予約、フロントへの依頼などが可能なる。一方、人手不足に悩むホテル側にとってもこれまでより少ない人員でのオペレーションが可能になり、おもてなしの仕事に注力できるからだ」
「われわれが設計してるのはヒューマンセントリック(人間が中心に立つ、人間が中枢に位置する、人間主体)なデザイン。宿泊客だけでなく、ホテルのオペレーションに関わる人のことも考えている。それはビル業界でも同じことだ。オフィスビルで毎日働く人や、人手不足の悩みを抱えるビル管理の人のことも考えて設計している」

–今後の展開は
「当社はSDGs(持続可能な開発目標)をミッションと捉えている。世界的な課題であるカーボンニュートラルや、CO2の削減に貢献したい。その具体的な手段として、AIを活用した当社のソリューションを提案していく。日本では高齢化とともに生産年齢人口の減少が進んでおり、ビル業界やホテル業界では人手不足の課題を抱えているほか、今後ホテル業界はインバウンド(訪日外国人客)需要の増加に伴う対応も求められる。この環境、人手不足、インバウンドの3つの課題解決に当社のソリューションで貢献していきたい」

 

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