【経営軸線・良品計画】主人公は住民 "感じ良い暮らしと社会"実現へ 押しつけないまちづくり | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【経営軸線・良品計画】主人公は住民 “感じ良い暮らしと社会”実現へ 押しつけないまちづくり

 “感じ良い暮らしと社会”を追い求める良品計画(東京都豊島区、松崎曉社長)は、だれもが社会参画できるまちの実現を目指し、日本各地でさまざまな取り組みを進めている。ときには、同社社員が課題を抱える地方の自治体や老朽化が進む団地に移り住み、現地での生活を通じて課題の解決策を探る。2014年に事業開発担当部署を発足、18年にはまちづくりなどに取り組む「ソーシャルグッド事業部」を設立。「押しつけないまちづくり」を進める執行役員ソーシャルグッド事業部長の生明弘好氏と、同部スペースグッド担当課長の野村俊介氏に、同社が理想とするまちのあり方を聞いた。

豊島区の公園で地域住民が交流

–まちづくりに取り組み始めたいきさつは

生明 弘好氏
(あざみ・ひろよし)
1998年良品計画入社。MUJI U.S.A. Ltd President、2014年事業開発担当部長などを経て、18年から現職。

生明 まちはわれわれの暮らしに間違いなく必要な存在で、感じ良い暮らしと社会を目指す企業として、まちづくりへの関与はある意味必然だった。

–具体的な取り組みは

野村 東京都豊島区の中小公園活用や団地再生、地方の地域課題解決、廃校活用などに取り組んできた。
生明 豊島区には百数十の公園があるが、その多くは中小公園で有効活用されていない公園も目立っていた。中小公園は注目されることが少ないが、わたしたちにとっては最も身近で重要な存在でもある。そこで中小公園の魅力を再編集し、公園の使い方から公園表示、ベンチなどを見直した。マルシェ(市場)などのイベントも開催した。その過程では、地域の人たちと何度も会話を重ね、一緒に考えながら形にしていった。

–利用者からの反響は

生明 東池袋駅近くの小規模な公園では、マルシェを開いた。その公園は、子育て世帯も多く住むタワーマンションと、高齢者が多い木造住宅密集地域のちょうど境目にある。双方の住民からは「イベントを通じ、これまで交流のなかった世代の方と初めて接点を持てた」という声をもらった。公園は新旧の住民をつなぎ合わせる場であることを実感し、“場”というものの重要性にも気付かされた。

–Park-PFI(公募設置管理制度)への参画は

生明 当社単独では整備の難しい大規模な公園で、ほかの企業と一緒に参画する形はあり得る。ただし、われわれが中心になるのではなく、地域の役に立つコンテンツ、例えば店舗だったり子どもの遊び場をつくったり、防災機能のグランドデザインだったり。そうした部分で関わっていくことは出てくるはず。

–地方の課題解決に向けた取り組みにはどのようなものがありますか

野村 俊介氏
(のむら・しゅんすけ)
2000年良品計画入社。店舗開発部開発Ⅱ課長、17年事業開発担当課長などを経て18年から現職。

野村 山形県の酒田市では、地域住民との交流を通じ、移動販売の取り組みをスタートした。もともとは、市役所の方からの出店相談が始まりだった。ただ、その物件は当社の出店要件を満たしておらず、難しいという話になった。しかし話を聞くうちに、まちとしてのポテンシャルを感じ始めた。そこで若手社員10人ほどが酒田に入り、どういう取り組みができるのか、地域の方とコミュニケーションを取りながら構想を練り始めた。そして、中山間地で軽トラックを使った移動販売をすることになった。2月には小規模な無印良品もできた。これは、段階を踏みながら少しずつ地域と関わる度合いが深くなっていった事例である。酒田もこれで終わりではなく、次は、無印良品の商品・サービスをすべて提供できる規模の拠点整備も考えている。

–都市再生機構(UR)と取り組んでいる団地リノベーションの状況を教えてください

生明 団地のリノベーションにとどまらず、商店街の空き店舗への出店など、地域のリノベーションに取り組んでいる。
野村 最近は、団地に当社の従業員が移り住み、地元住民目線で活動する取り組みも進めている。20年ごろから東京都内の団地に2人住んでいる。実際に暮らすことで、団地の困りごとがリアルに分かるという声があった。例えば、改修するならこうした方が良い、こういうサービスがあれば良いといった意見が出てくる。

MUJI×URリノベーション団地。
無印良品の従業員も暮らしている

–無印良品では家具のサブスクリプション(定額制)サービスを始めましたが、今後、団地との組み合わせもあり得ますか

生明 個人個人で選ぶことはいまのサービスでも可能。それを法人向けのサービスとして拡大するかどうかは検討段階にある。団地に限らず、特に、若い方が比較的短期間で出入りするようなタイプの集合住宅なら、マーケットとして十分考えられるだろう。

–まちづくりで意識していることはありますか

生明 主人公は住民の方 という認識を持っている。われわれが“巻き込む”のではなく、住民の方たちが主体となってまちをつくる。相互に巻き込み、巻き込まれながらまちをつくっていく形を目指したい。
野村 “押しつけない”ことも重要だと思う。無印良品の商品にも言えることで、最終的には消費者に委ねるというスタンスを大切にしている。
生明 押しつけないということは、巻きこまれるという立場とも言える。そもそも無駄なことはやめる、使えるものは使うという側面もあるだろう。まさしく廃校や空き店舗を活用するというのは、無印良品のコンセプトの1つである。

–無印良品創業時に発売され、割れたものも選別せずひとまとめにした「こうしんわれ椎茸」にも通じるところがありますね

生明 まちづくりの中でも無印良品の精神が続いている。例えば老朽化した空き家であれば、建て替えや取り壊し一辺倒ではなく、価値を与える努力はすべきだと思う。防災の観点などもあり一概には言えないが、壊す前に徹底的に検討すべきだろう。

無印良品創業時に発売された「こうしんわれ椎茸」

–短期的、中長期的に目指すまちのあり方を教えてください

生明 5年後でも30年後でも変わらない。だれもが幸せに、そのまちのさまざまな取り組みに参画し、自己実現できるまちが理想。人口減少、高齢化についても考えていきたい。都会で小さな集合住宅に住む人たちが、過疎地で人が住まなくなった空き家を週末だけ使えるようにするというのも良いだろう。個人で所有しなくても、みんなでシェアするという使い方もあるはず。

–まちづくりを一言で言い表すとどんな言葉がふさわしいと思いますか

生明 まちづくりは“人づくり”だと感じる。まちは、人があってこそのものだから。どういう手法でやっていくかはまさにいまやっている途上だが、願わくば、さまざまな形に進化させていきたい。



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