【関西から全国へ】創造的先進技術の発信を目指す 阪神高速先進技術研究所の取り組み | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【関西から全国へ】創造的先進技術の発信を目指す 阪神高速先進技術研究所の取り組み

 「情報技術も活用し、高速道路の中長期的な技術開発に取り組む」と決意を示すのは阪神高速先進技術研究所の西岡敬治理事長だ。7月1日付で阪神高速道路技術センターから法人名を変更した同研究所は『創造的先進技術への挑戦』を経営理念に掲げ、時代の変化に対応するため研究体制も補強する。「われわれの技術を関西、ひいては日本全国に発信したい」と前を向く。

西岡理事長


 1978年に阪神高速道路管理技術センターとして設立した同研究所は、2013年に前身の阪神高速道路技術センターへと変わり、今回が2回目の名称変更となる。法人名を変えた背景にはこれまで培った土木分野中心の考え方から脱却する必要があった。

 阪神高速道路を中心に維持管理など高度な課題を研究することでさまざまな技術やノウハウを培い、学識者や研究者とのネットワークも構築してきた。しかし、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの急速に発展する情報通信技術にも対応する必要があると考えた。

 22年3月期までの中期経営計画は▽技術力の強化▽公益目的事業の深化と着実な実施▽経営基盤の確立――の3本柱で構成されており、技術力の向上では大阪湾岸道路西伸部や淀川左岸線延伸部などの大規模新設プロジェクトでの新技術開発に前向きだ。「特に情報通信技術の発展により、さらに業務の効率化・合理化を図りたい」と力を込める。

 技術開発には人材も欠かすことができないため、研究所内の職員も増強している。現在29人の職員が働いており、すでに21年度、新卒1人の採用が決まっている。中途、新卒問わず情報系や設備系などの土木以外の分野を専門とする職員を増やしたい考えもある。

 所内の研究体制だけでなく、外部との新たなネットワーク構築も狙う。情報技術に関わる委員会『スマートエクスプレスウェイ技術検討委員会』(委員長・河野浩之南山大学教授)を研究所に設置することで情報分野の学識者との交流も重ねている。

 グループ企業との連携も強化する。阪神高速道路会社、阪神高速技研、阪神高速技術と研究所の4社で協定を結び、開発まで一定期間を要する研究や先進的・基礎的・部門横断的な研究を進める。例えば、高速道路上で全方位を観測できる監視カメラや防災・減災システムなどがある。監視カメラはリモートで全方位を確認できるようにすることで、パトロールの負担を減らすことができる。

 研究所の目標は新技術の開発にとどまることなく、その技術が現場で実装されることにある。予防保全の分野ですでにドローンなど近接目視に代わる点検手法も開発されているが、実装レベルには至っていない。原因として飛行についての法的規制と天候や点検対象個所などの制限があるため、それぞれの機関が課題解決に向けての検討を進める必要がある。研究所では「AIなどの活用により、得られた膨大なデータを瞬時に診断・判定するソフト技術の開発にも注力したい」と語る。

 阪神高速道路会社が19年に発表したサイバーインフラマネジメントシステムもさらに研究を進めていく。高速道路でのSociety5・0の実現に向け、サイバーインフラ・マネジメント技術を活用した仮想空間の阪神高速道路構造物を再現するシステム上で地震時の挙動をシミュレーションすることにより、全線の損傷具合やどのように回復させるかまでを計算できるよう取り組んでいる。

南海トラフ地震を想定した地震被害シミュレーション(変形倍率100倍)


 少子高齢化だけでなく、新型コロナウイルスの影響を受け、現場も含めて省力化・省人化が期待されている。「働き方改革を進めなければ業界に人材が居なくなってしまう」と危惧する。「(新型コロナウイルスの脅威が続く)この機会にこそ産学官が連携し、働き方改革や新しい日常につながることを提案する必要がある」と指摘した上で「人間の優れた感覚を模倣できるシステムができれば、一層働き方改革も進むだろう」と業界を超えたオープンイノベーションにも期待する。

模型供試体への載荷実験

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