【深化する関西の建設ICT②】インタビュー/BIMマネジメントの役割担う 東畑建築事務所社長 米井 寛氏 | 建設通信新聞Digital

5月17日 金曜日

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【深化する関西の建設ICT②】インタビュー/BIMマネジメントの役割担う 東畑建築事務所社長 米井 寛氏

東畑建築事務所社長 米井 寛氏

 国土交通省が設計から施工までの一貫BIMを試行導入する長野第1地方合同庁舎の設計業務を受託した東畑建築事務所の米井寛社長は「施工へのデータ受け渡しだけにとどまらず、今後は維持管理まで見据えた一貫BIMマネジメントに関与したい」と語る。ことし4月にはBIM推進室の体制強化を図るなど、社を挙げてBIMへの対応にも舵を切った。建築設計事務所はBIMとどう向き合うべきか。米井氏の考えを聞いた。

――BIMの導入状況は
 若手社員を中心に着実に活用は進んでいる。あえてBIM推進室の室長には意匠設計者を任命した。室長自らがBIM設計に取り組みながら、設計フローや社内システムの構築を担ってもらう。設計者がBIMの先導役になることで、よりスピード感が出てくる。現在は基本設計での活用が中心だが、クライアントのニーズやプロジェクトの特性に応じて、BIMの活用範囲を広げていき、企画から維持管理までのBIMマネジメントを担う立場も目指したい。

 最近、ファシリティマネジメントの観点からもBIMを活用したいというクライアントからの要望が増えてきた。BIMは建築界全体で取り組むべき課題であり、ことし3月には建築BIM推進会議によるガイドラインも策定されたが、まずはBIMの設計ワークフローをしっかりと構築することが先決であろう。公共建築のBIM推進にとっては、長野第1合同庁舎はひとつのモデルとなるが、ここで得られた知見が発注者を介して広く共有され、BIMの推進に役立つことができればと考えている。

――BIM導入の目的は
 われわれ設計者にとって、BIMは生産性向上のためだけではなく、あくまでクライアントへのサービスや設計品質の向上のための手法である。BIMによる設計プロセスの可視化も有効であり、クライアントとの合意形成を早めるほか、環境シミュレーションによって、より緻密な空間検討も可能になる。例えば、スタジアムやホールのサイトラインの検証や気流シミュレーションなどはとても有効に行うことができた。ウォークスルー機能を使い、仮想空間を体感することもBIMならではであり、完成時にこんなはずでなかったというクライアントとの齟齬も生じにくい。BIMは信頼関係を深めるツールでもある。

 BIMを使いこなすためにはまずは設計力が必要である。BIMユーザーにはテクニカルなスキルよりも、より良い設計を突き詰める意志が求められ、BIMを使うこと自身を目的にしてはいけない。従来のCADは空間を2次元に変換して表示しているが、BIMは設計者の抱く空間イメージをデジタル空間に転写し、両者がシンクロしながら空間をデザインしていくようなものではないか。設計の世界観は大きく変わり、パラメトリックデザインのように、さまざまなデザインバリエーションの中からより最適な形を見つけることもできる。

――今後の方向性は
 現在、社内のBIMプロジェクトは本社のある関西圏だけで10件以上が動いている。民間クライアントからBIMを前提に提案を求められるケースも少なくない。ただ、BIMによる設計は従来の方法に比べて専門技術を伴う労力がかかり、BIMマネジメントという新たな業務が発生する場合もある。業務報酬の観点から見れば、従来の基準には当てはまらない。建築界にBIMがさらに浸透すれば、いずれは国土交通省告示の算出方法にも反映しなければいけないのではないか。また、BIMに関する設計者と施工者の役割分担や、モデリングデータの受け渡しのルールなどを確立する必要もあり、設計事務所としては、これらにも主導的に関与したいと考えている。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展という観点からは、BIMはその起点にあると考えている。設計プロセスへのAIの活用も視野に入れたい。AIによる設計の可能性は未知数であるが、コンセプトメイキングやデザインは人がやり、手間がかかる作業をAIに任せるような棲み分けになるだろう。クライアント本位を志向する東畑建築事務所らしさは堅持しつつ、新たな設計手法やデザインの可能性をこれからも追求しつづけたい。

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