【レジリエンス社会へ】インタビュー・斉藤猛江戸川区長 "安心感"日本一の新庁舎に | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【レジリエンス社会へ】インタビュー・斉藤猛江戸川区長 “安心感”日本一の新庁舎に

水害に対応する災害拠点/ハードとソフト融合、100年後も使いやすく
 東京都江戸川区は、三方が江戸川や荒川などの大河川と海に囲まれている。区陸域の7割が満潮位以下のゼロメートル地帯と呼ばれる低地にあり、そこには70万の区民のうち約50万人が住む。水害に対する危機感が強い同区では、行政・防災拠点として「船堀地区」の高台まちづくりが進む。4月に再任した斉藤猛(さいとう・たけし)区長にまちづくりの取り組みに対する思いを聞いた。

斉藤猛 江戸川区長

 かつて江戸川区の中心地は、現庁舎が立地する場所だった。葛西地域などの埋め立て地の開発に伴い、「現在は船堀地区が区の中心になった」と話す。同地区は、2020年2月に高台まちづくりのモデル地区に設定され、28年度には区の庁舎が移転する予定だ。水害の被害想定では、荒川左岸が決壊した場合の浸水深は3~5m程度、浸水継続時間は最長で2週間以上とされており「区の課題が如実に表れている」と言う。

 新庁舎の基本設計方針に「これからの100年を支える日本一の防災庁舎」を掲げた。ハード面の対策として、水害リスクを踏まえ、中間層免震構造(5階床下)を採用する。機械室や受水槽は免震層上部に整備し、地下階は設けない。エレベーターの一部は制御盤とともに2階着床とし、水害時も使用できるように検討している。

 建築物の構造の強さはもちろん、「ハードとソフトを融合して生まれる“安心感”を日本一にしたい」と語る。災害対策本部や危機管理部を中間階に配置するほか、災害避難ルートと避難所の見える化、展示やデジタルサイネージによる情報発信も行う予定だ。

 ソフト面では今年度から、災害時に自力による避難や在宅での避難生活が困難な高齢者、障害者などの支援強化に向け福祉部内に「災害要配慮者支援課」を新設した。乳幼児や妊産婦の避難支援のため、子ども家庭部などに「災害要配慮者支援係」も新たに設置した。「複数の部署に構えることで、全庁挙げて推進する意識付けをする」と意気込む。

 新庁舎は、船堀四丁目地区市街地再開発事業と一体で整備する。「私たちの“一丁目一番地”は人の命と財産を守ることだ。再開発事業により、周囲と一体で災害に強いまちをつくることができ、結果的に区民を守ることにつながる」と話す。

 今年3月に定めた「船堀駅前地区高台まちづくり基本方針」では、浸水の恐れがない地域に移動する広域避難を前提とし、新庁舎、船堀四丁目地区市街地再開発事業で整備する複合施設、タワーホール船堀の3施設を「防災活動拠点」に位置付け、建物群による高台まちづくりを計画している。「まち全体で防災の機能を持たせることは、安心感につながる」とみている。

「船堀駅前地区高台まちづくり」対象区域


ハザードマップ

 安全を確保した後、徒歩で浸水区域外へ避難できるように、歩行者デッキなどの非浸水動線を確保する。38年までに非浸水動線を船堀駅まで接続し、「将来的には荒川までつなげたい」と語る。浸水区域外への動線確保を目指し、高速道路などの既存インフラとも連携する。

 同区のハザードマップには、“ここにいてはダメです”という目を引くフレーズがある。居住してほしいはずの自治体が「逃げろ」を全面的に打ち出すことは珍しいが、実際は1981年から大規模な浸水被害は発生していない。船堀地区以外でも複数の地域で高台まちづくりが進んでいる。「リスクは十分周知することができた。その分の対策を進めていることに理解してもらうことが今後の課題だ」と話す。

 斉藤区長は、新庁舎のこだわりとして“可変性のあること”を計画当初から要望してきた。「5年後に使うのはわれわれだが、50年、100年後の人も使いやすい自由度の高い建物にしたい」。遠い将来を見据える姿勢が、安心で住みやすい区の実現につながる。

新庁舎のイメージ



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