【レジリエンス社会へ】インタビュー 関東地方整備局長 藤巻浩之氏 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【レジリエンス社会へ】インタビュー 関東地方整備局長 藤巻浩之氏

首都圏全体の防災力・対応力向上/災害への備え『わがこと化』
 「首都圏全体・地域全体で防災力や対応力を高めなければならない」。国土交通省関東地方整備局の藤巻浩之局長は首都直下地震の切迫性が高まる中で必要な姿勢をこう訴える。首都直下地震発災時に都心への道路を切り開く八方向作戦の実効性を高めるため、さまざまな手段を駆使した被災情報の収集と伝達にも力を入れる。関東大震災100年の節目を迎える今年は『連携・実践・わがこと化』をテーマに、管内各地でリレーシンポジウムを開いてきた。「最後は一人ひとりの行動が重要になる。それぞれがわがこと化して考えることが大事だ」と強調し、災害への意識変革を促す。

関東地方整備局長 藤巻浩之氏

◆関東大震災の教訓生かす
 100年前の関東大震災発災時と現代では都市構造が大きく変化し、生活様式も違うが、「現在の社会構造に照らして学ぶことはたくさんある。当時の教訓をもう一度掘り返してみることが大事になる」と語り、過去の大震災の教訓を首都直下地震への備えに生かしていく考えを示す。一方で、「首都直下というが、どこで起きるか分からない。迅速に応急対応するためには、総合力を高める必要がある」と指摘する。

 災害へ備えていくため、「5か年加速化対策を使って、関東の国土をより強靱化していく。自治体の方々と一緒に取り組んでいきたい」と力を込める。道路や橋の耐震化や老朽化対策と並行して、災害に強い交通ネットワーク構築にも注力する。

 予算やマンパワーが限られる中、「新技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて、少しでも効率的にスピード感を持って整備できるようにしていかなくてはならない」と創意工夫の必要性も強調する。「国土強靱化の担い手である建設業界が健全に発展しなければ、仕事ができない」と述べ、業界と一体となって魅力向上や担い手確保に取り組む姿勢も示す。



◆迅速に情報収集し道路啓開
 首都直下地震発生時には都心に向かって道路を開く八方向作戦の実現を目指す。「われわれが道を切り開かなければ、自衛隊も入れない。精いっぱいやっていきたい」と意気込みを語る。

 八方向作戦では、最初の3時間でルートを選定し、発災から48時間以内に各方向から少なくとも一つのルートを切り開く構想を掲げる。「現地の映像が重要になる」ため、カメラやヘリコプター、二輪・三輪バイクなどあらゆる手段を駆使して情報収集すると同時に、情報伝達手段の構築も進める。「収集した写真や映像を衛星経由とは別に、自営の光ケーブル(情報コンセント)経由でも伝達できるように、首都圏の道路で実動訓練を実施した。その内容を踏まえ、今後主要な幹線道路の沿道に可能な限り設置を進めて、いざという時に備えたい」と語る。

八方向作戦による道路啓開のイメージ


 前職の九州地方整備局長時代には、台風が宮崎県を襲い、電柱が倒壊して停電が発生した。「毎日のようにテレビ会議をし、どこから道路啓開をしたら停電を解消できるかを九州電力から教えてもらい、その道路の啓開を急ピッチで進めた」と振り返る。その経験から、「電気やガス、水道などの管理者と国土交通省の双方が連携していくことが大事だ」と実感したという。多機関との連携を進めて実践に備える考えだ。



◆訓練とシンポでつなぐ意識
 道路啓開の実効性を高めるため、8月3日には過去最大規模の17団体350人が参加する実動訓練を行った。「実際に八方向作戦を実践する際には、啓開するルートを決断する時が一番難しいのではないか。ある程度進めながら状況を見て決める場面も出てくるだろう。何回も訓練をして反省点を見つける必要がある」と気を引き締める。

過去最大規模で実施した道路啓開訓練


 「実践の場を経験した人間と経験していない人間には差がある。経験した人間は災害時に何をすべきかが分かる」と語り、体験を伝えることの重要性を指摘する。今年管内各地で開催してきたリレーシンポジウムでは、市民一人ひとりに災害に対する意識・備えを持ってもらうことに心を砕いてきた。「多くの人に来場してもらい、手応えを感じている。来年度以降も違った切り口で続けていきたい」と構想する。



◆将来見据え首都圏リニューアル
 国土形成計画の閣議決定を踏まえ、今後首都圏広域地方計画の検討が本格化する。「災害がより激甚化・頻発化し、危機管理の側面からエネルギー問題や食料問題も考えなくてはならない。将来を見据え、首都圏をよりしなやかににぎやかにリニューアルしていく必要がある。インフラ整備の旗振り役として先頭を切って考えていかなくてはならない」と見据える。



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