【レジリエンス社会へ】香川大学特任教授 地域強靱化研究センター長 金田 義行氏 | 建設通信新聞Digital

5月15日 水曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】香川大学特任教授 地域強靱化研究センター長 金田 義行氏

“いま”に置き換えてイメージ/人材育てリテラシー高める

 「防災は、何か特別なことを新しく始めなければいけないわけではない。日ごろから心掛ける食事や運動など健康管理と一緒」。こう表現するのは香川大学で減災科学を研究する金田義行地域強靱化研究センター長だ。毎日の“普通”に防災の視点を少し意識するだけで新たな発想が生まれるとアドバイスする。イメージすることの大切さを知るとともに、地震国日本を減災国日本に変えるため、平時の考えを非日常に適用させるシームレスな防災を提案する。

金田 義行氏

 2月に発生したトルコの大震災では「さまざまな課題が突き付けられた」と振り返る。まずは歴史をひもとき、自分が住む地域で過去にどのような災害が起こったかを知ることから始めるべきという。それだけでは不十分で「“いま”に置き換えたシナリオを用意することが大切だ。その中には復旧・復興の明るい地域づくりのイメージまで入れてほしい」と語る。

 「南海トラフ地震の切迫度はかなり高まっている。必要以上に恐れず、必要に恐れること」と危機感を示す。今後30年以内の発生確率は70~80%とされる。この数字に対しても“大丈夫だろう”という正常性バイアスを断ち切る意味で「降水確率に置き直してほしい」という。70%の予報ではほとんどの人は“傘を準備”という行動に出る。こうして日常の一コマに置き換えて“わが事”になれば、備えへの意識が芽生えるからだ。

 四国地方は平年を通して穏やかな気候の地域があれば、毎年のように豪雨災害に見舞われる地域もある。必然的に防災への意識にも温度差が生じる。そのギャップを埋めることが課題である一方、「『普段被災しないから安全だ』という誤った考えは払拭しなければならない」と警鐘を鳴らす。さらに「災害が少ないことと危機意識が高くないことは別次元の話」と言い切る。

 紀伊半島から四国沖合の海底には地震・津波観測監視システム(DONET)が広がる。緊急地震速報や津波警報への情報伝達に活用できるよう研究が進むなど、科学や工学、情報学は着実に進歩している。一方で「受け取った情報のリテラシー(読解記述力)がなければ、人は行動に移さない」と指摘する。もしリテラシーが不十分な場合、避難情報に関しては“大丈夫だろう”となり、自助が働きにくい。共助は、日ごろから意識して取り組まなければ、いざという時に対応できない。「思いやりが持てる地域コミュニティーをつくることが一番好ましい。そのためには人材育成しかない」と力を込める。

 南海トラフ地震の研究プロジェクトの一環として、3年前から小中学校への出前授業が始まった。児童に防災について事前アンケートし、授業を通じて理解度を分析する。これを繰り返しながら、グループワークで考える力を養ってもらう。

 「災害に対する備えだけでなく、災害を乗り越える力が真の強靱化、つまりレジリエンスではないか」と投げ掛ける。何度も立ち上がれる柔軟な姿勢と思考を磨き上げ、次のステージを見据えた地域社会の創造に期待する。



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