【BIM未来図・大旗連合建築設計⑤】施主の思いカタチにする手段 本社移転機に新ステージへ | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【BIM未来図・大旗連合建築設計⑤】施主の思いカタチにする手段 本社移転機に新ステージへ

 BIM導入が着実に進む大旗連合建築設計(広島市)だが、大旗祥社長は「設計のスタンスとしてBIMありきとは考えてない。われわれの使命は施主の要望を聞き、それをカタチにすることである。ただ、その手段としてBIMが優れたツールであることは間違いない」と説明する。懸念するのは「設計の成果であるBIMが、きちんと施工段階につながらない」点だ。

左から高橋氏、大旗社長、伊藤取締役、児玉氏


 部分的な導入も含めれば設計の全案件に導入しているBIMだが、基本設計から実施設計まで一貫して導入したプロジェクトであっても、施工者には2次元図面でしか渡せていない現状がある。BIM導入に前向きなゼネコンが施工を手掛ける場合にはBIM化を求められるケースがあるものの、全体から見ればまだごく一部に過ぎない。

 本来であれば設計から施工につながることが理想だが、現状は設計サービスの部分にとどまっている。BIMで設計しても最終的に引き渡す成果は、これまでと同様の2次元図面であることは変わらない。「BIMだけに力を入れても、肝心な最終成果として出力した2次元図面のクオリティーが落ちてしまうのは本末転倒。だからこそ設計のスタンスは良質な設計をすることが前提であり、BIM導入にこだわる考えはない」と胸の内を明かす。

 あくまでも同社は、社員の前向きなチャレンジ精神を誘発する手段としてBIMを位置付けている。社内をけん引するBIMプロジェクトチームには、そうした貪欲さが現れ始めている。設計部の兒玉亮太課長は「今後はBIMの属性情報をフル活用して解析の部分にも力を注ぎ、施工者と念入りな情報共有を進めていきたい」と強調、高橋智彦課長も「施主とのコミュニケーションをさらに深める手段としてVR(仮想現実)を積極的に活用していきたい」と前を向き、ともに次なるチャレンジを考えている。

 営業的な立場から、伊藤智宏取締役もしっかりと先を見通す。現在は施主との対話ツールとして機能しているBIMだが、いずれ同業他社にも広く普及すれば、それが当たり前になり、差別化が図りにくくなる。「施主のためのBIMとは何かを考えれば、完成後を見据えた提案につなげる工夫も必要になってくる」と、維持管理領域へのアプローチも視野に入れている。

新オフィスの内観モデル


 来春、同社は本社移転を計画している。既に室内プランもBIMで念入りに検討中だ。大旗社長は「移転を機に事務所を新たなステージへと押し上げたい」と力を込める。根底にあるのは、創業者の大旗正二から受け継がれた『人と建築の交わりを求めて』という変わらぬ理念だ。そこには建築はかかわる人々との対話、交わりが進むことでより良いものになるという意味が込められている。社内ではBIMを使った施主との密接な対話が根付き始めた。
(おわり・西原一仁)

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