【BIM2021】BIM標準化の展望・松村 秀一氏 "若者が能力発揮する産業に" | 建設通信新聞Digital

5月18日 土曜日

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【BIM2021】BIM標準化の展望・松村 秀一氏 ”若者が能力発揮する産業に”

 国土交通省の「建築BIM推進会議」でBIM標準化の議論が進められる中、設計と施工をつなぐ“核”としての役割を果たす建築確認検査のBIM化も着々と進んでいる。建築BIM推進会議と「建築確認におけるBIM活用推進協議会」を取りまとめる松村秀一東京大学特任教授に、BIM標準化が導く建築産業の将来を展望してもらうとともに、活用推進協議会の取り組みと、その事務局を務める日本ERIと日本建築センターの最新動向を紹介する。


東京大学大学院工学系研究科建築学専攻特任教授
建築BIM推進会議委員長
建築確認におけるBIM活用推進協議会会長
松村 秀一氏


――建築BIM推進会議や建築確認におけるBIM活用推進協議会の検討のポイントは
 現状のBIMの取り組みには2つの側面がある。典型的なものが、施工BIMや設計BIMなど、建築生産システムの発注、設計、建設、維持管理の一連のプロセスにおける各分野の効率化に向けた取り組みだ。
 一方で、精緻なモデルを活用することで、建築生産システム全体を通じ、より効果的にBIMを活用することが求められている。それにはBIMそのものの技術的課題よりも建築生産の各段階における業種・団体間の“関係性”が課題になる。推進会議や活用推進協議会では、さまざまな業界団体、プロセスの相互の関係性についての検討も進めている。
 通常、新技術を導入する際に設定するのは、入力作業を何%削減、業務時間を何%節約するといった数値目標だが、関係性の検討で必要なのは数値ではなく、建築生産の不明快な部分を明快にし、プロセス全体の中で各々の役割を見直すことだ。あいまいだった主体間の関係性やデータの受け渡しに必要な情報を定義することで、システム全体を通じたBIM活用につながる。多くの人が建築生産システムを見つめ直す機会になるため、その効果を第一に考えたい。

――建築確認検査の取り組みで必要なことは
 確認検査機関は図面を書く仕事ではないため、BIMを使う直接的理由はない。しかし設計、施工がBIMを使うことで、確認検査にBIMの関連データが提出されるようになる。そのときの対応やBIM活用がどうあるべきかを検討している。
 BIMを建築生産システム全体に広げると、本来はBIMに取り組まなくてよいところも含めて関係性を見直さないと真価を発揮できない。その意味で確認検査機関の検討はきわめて重要になる。
 確認検査がまったくBIMに対応しないと、設計、施工がいろいろやっても審査に提出する図面だけ2次元になる。これからBIMの時代がくるのなら活用推進協議会が検討している専用ビューアの活用や業務効率化の検討を進める必要がある。
 例えば、建築確認に合わせて長期優良住宅や住宅性能表示制度などの審査を別機関が行うが、情報を一元化したBIMモデルからそれぞれの制度に必要なデータを抽出し、提出できる。また、BIMに情報を蓄積することで過去の案件との比較などが容易にでき、確認検査に限らず広くデータを活用できる。

――標準化により期待することは
 いまの子どもたちの教育課程にはプログラミングや情報の教科があり、受験科目にもなる。プログラミングを当たり前にこなすITリテラシーの高い若者がこれから社会にどんどん出てくる。彼らは心理的障壁を持たずにいきなりBIMに触れることができるだろう。その時までに各団体の努力が結実していれば、BIMのデータを生かしたものすごい使い方ができる可能性がある。
 逆に、いま何もしなければ、高いリテラシーを持つ人材が建築産業で能力を発揮できない状況になる。明日の仕事の省力化も大事だが、もっと長期的なビジョンを持ち、他産業より遅れた状態にならないよう努力すべきだろう。将来を見据え、「業界全体で取り組まなければできないことをいまやっている」という意識を持つことが重要だと思う。
 言い換えると、すでに完成している建築生産プロセスの中で、発注、設計、施工、維持管理の一連のプロセスに根付いた商習慣を再整理することが、われわれの負うべき役割だ。BIM標準化の検討が、建設業界の良い部分の再定義や悪い部分の見直しをするチャンスとなる。明日の建設業のフィールドを耕すため、そのために必要な作業を協議していきたい。



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