【日建グループ 大石久和氏招きフォーラム】危機学び再出発の道を展望/国土のあり様が世界との関係を規定 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

公式ブログ

【日建グループ 大石久和氏招きフォーラム】危機学び再出発の道を展望/国土のあり様が世界との関係を規定

 日建グループは5月25日、大石久和氏(全日本建設技術協会会長・国土学総合研究所長)を招き、「『国土学』が問う現代日本の危機と再出発への道~日本人が進むべき道~」と題して、オンライン形式のNIKKEN FORUMを開いた。大石氏は日本の経済成長を阻害している最大の要因として財政認識に対する誤りを挙げ、「先進国の中で日本だけが道路をつくらず、都市整備もしない。中国のように大幅に財政支出を伸ばした国は大きく経済成長している。問題は国債発行をけちるのではなく、いかに経済成長するのかということ。これが大事なポイントだ」と、積極的な財政支出を強調した。

 

亀井会長(左)、大石氏(右)



 フォーラムでは日建設計の亀井忠夫代表取締役会長がファシリテーターを務め、東京都千代田区の同社竹橋オフィスからライブ配信した。亀井会長は、「日本の国土の特殊性に焦点を当て、国土学という概念を提唱し、日本が抱える問題の本質に迫っていると感じていた。大石氏は高校の大先輩でもあり、今回は特別にお願いした。昨年から1年以上コロナ禍が続いているが、私たちが進むべき道を国土学から学ぶ機会にしたい」とあいさつした。
 大石氏は、「コロナ禍での日本や日本人の対応は世界と異なっていることを感じていると思う。科学技術にしてもワクチン1つ開発できない。デジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)でも世界から後れをとっている。日本は周回遅れの国になっている」と切り出し、国土学について「国土のあり様が、人のあり様、世界との関係を規定するということを理解する上で非常に重要な体系で、1つの社会の見方を提供している」と説明した。


 日本の国土は、台風の通り道に位置し、平野が少なく、地震が多いなどの特徴があり、「限られた小さなエリアがわれわれの考え方を規定してきた」と指摘。自然災害の影響を数多く受けるものの、隣国と陸地で接し、紛争が絶えない大陸の国々とは危機に対する意識が異なり、「世界と交流していくためには大きな認識の違いがあることを意識しなければならない」と強調した。
 亀井会長は、「建築設計でも自然に対してコントロールできるか、できないかで大きな違いが出てくる」とし、特殊な国土の中で、具体的に迫っている危機について問いかけた。


 大石氏は、日本が抱える最大の危機として「財政認識の誤り」を挙げ、「いわゆる国の借金という認識で、財政再建が何よりも大事ということが刷り込まれている」とした。その上で、具体的な事例を挙げながら国債発行が将来にツケを送ることにはならないことを力説した。
 「財政健全化と言っている国は日本だけ。米国のバイデン大統領も中国に負けないように積極投資を打ち出し、英国のジョンソン首相も大規模なインフラ投資をしなければならないと言っている」と、日本と先進諸国の意識の乖離(かいり)を指摘した。
 OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で1990年から実質的賃金が横ばいになっているのは日本だけであることも指摘し、「90年以降、日本人が怠慢になったというわけではなく、一生懸命働いているにもかかわらず賃金が上がらない。恐ろしいのはこれに政治が反応しないことだ」とし、国民を豊かにするという使命を果たさない政治の機能不全を非難した。


 かつて世界トップクラスの経済大国だったが、いつの間にか転落の一途をたどり、気が付けば先進国の中で下位に甘んじている日本が再出発するためには、「われわれが主権者意識を取り戻さなければならない。きちんとした政策のできる政治家を選択するのが国民の責任でもある」とし、「財政健全化と言っている政治家は国民を不幸にする。いまは世界中が積極財政だ。日本は積極財政が遅れたから体たらくになっている。日本人の能力を引き出すことに政治家は成功していない。われわれはそれを正すことができると信じて動くしかない」と締めくくった。



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら