【次代をつなぐ】平山建設(千葉県成田市) 理念から始まる働き方改革 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【次代をつなぐ】平山建設(千葉県成田市) 理念から始まる働き方改革

【専用HPで現場情報を技能者と共有/フォトラクション使い10分で竣工検査書類作成】

 1901年に平山金吉が千葉県成田市で平山商店を興し、3代目の金吾が63年に建設業を立ち上げ、ことしで創業120周年を迎える平山建設。「成田のふるさとづくり、街づくり、建物づくり」を企業理念とし、社員は「心・美・信・禮・創」をモットーに、4代目の平山秀樹社長は「社員の物心両面の幸福」を追求する。社員一人ひとりに浸透する理念やモットーの延長線上に、現在のICT技術を活用した生産性向上による働き方改革がある。

平山社長


 社員のモットーは87年に社員自らが制定したもので、先代社長も確固たる理念をもとに経営していた。だが、95年に入社した平山社長はバブル崩壊後の建設需要低迷期に「24時間365日働き詰めで、当時の記憶があまりない」というほどだった。「自信のあった省コスト高品質の賃貸住宅を売りまくった。仕事があれば長野でも茨城でも品川でもどこにでも行った」という。そうした中で20億-30億円の売上高のうち、成田での仕事は2-3割程度になっていた。

 「死ぬ思いで受注して融資を取り付けて竣工しても、外で仕事をしたらそれっきり。ある程度、受注が続いても、管理会社の気が変わると受注もなくなる」という状況に疑問を抱えていた。稲盛和夫氏の「盛和塾」に通い、「悩みに悩んで座禅に参加した」というほど「ぼろぼろの状態だった」。その経営者のもがきが徐々に形になり始める。

 2000年にホテル経営を手掛けたことでPDCA(計画・実行・評価・改善)の意義が理解でき、「やはり仕事も竣工して終わりでは駄目だ」と考えるようになり、『成田のふるさとづくり、街づくり、建物づくり』を掲げ、「成田に軸足を置こう」と少しずつ変わっていった。その結果、成田山・新勝寺の表参道の仕事に集中すると周囲の見方も変わり、土地の持ち込みから建物管理運営まで地元ディベロッパーの依頼が舞い込み、京成成田駅東口の区画整理事業に参画、複数のホテル建設へと受注の連鎖ができ始めた。いまではグループ全体で売上高は60億円程度にまで伸びた。

◆忙しさの理由は電話対応

 理念の追求から回り始めた歯車。働き方改革も、社長が「社員の物心両面の幸福」を心の底から追求した結果としての取り組みだ。モットーの浸透と並行して、社内に働き方改革委員会を設置した。「なぜ現場技術者が忙しいのか」を探った結果、たどり着いたのは現場監督の「電話対応の多さ」だった。職人が現場の場所からコンクリート打設のタイミングまでさまざまなことを現場の監督に電話で聞くため、その都度、作業の手が止まり、「書類作成などは夜や日曜日に先延ばしするようになっていた」と、委員会を担当する土屋剛常務お客様満足部長は振り返る。

土屋常務


 そこで、目を付けたのは「10年以上前から法人契約を結んでいたが、ほとんど使っていなかった」(平山社長)というグーグルワークプレイスというクラウドシステムだ。電子メールやカレンダー、チャット、文書作成、表計算ツールなどを統合できるシステムで、モデル現場を指定して「現場のホームページを作り、グーグルワークプレイスで作成した工程表や施工計画、図面、議事録、現場の案内図、駐車場の空き状況など現場のあらゆる情報をリアルタイムで現場の技能者に見えるようにした」(土屋常務)。工程表などには技能者のコメントも付けられるため、作業上の問題点も電話せずに指摘できる。

 現場にITツールが苦手な技能者もいたため、「グーグルのアカウントをつくるだけで2-3カ月かかった」(平山社長)が、一人ひとり対応した。「大事なことは、元請けが便利だからではなく、現場の人が良いと言ってくれなければならない。まずは一歩ずつ、少しずつ前に進むしかない」(同)と考える。このため、「7月からは全現場でホームページを立ち上げ、アカウントを持っていれば現場情報を見ることができるようにした」(土屋常務)という。

 いまでは、出退勤管理や稟議書、実行予算書、リモート会議もグーグルワークプレイスを活用し、「総務の社員が3日ほどかけていたタイムカードの集計が2時間で終わる」(平山社長)という。

 技術者の作業効率化では、フォトラクションの建築・土木生産支援クラウドサービスを3年前に導入した。携帯端末で電子黒板を事前に設定すれば、「1人で黒板の撮影が可能なほか、鉄筋の検査もでき、撮影場所が図面とリンクするため、かつては多くの人手と時間を要していた写真の整理が非常に容易になった。いまでは着工前にすべての黒板をつくってしまう社員もいる。こんなに楽な写真管理はない」(同)とその有効性を強調する。中でも平山社長が「驚いた」のが、「竣工検査での施主からの指摘事項をその場で写真に撮れば、図面上に指摘事項と写真、対応方法を整理でき、職種や現場といった分類ごとの整理も簡単にできる」(土屋常務)という検査機能で、「竣工検査後に施主と雑談をしていたわずか10分程度で検査書類ができあがる」(平山社長)という。

 こうした取り組みによって、時間外労働も徐々に減少し、24年4月の働き方改革関連法適用までの道筋が見えてきた。さらに加速するため、6月1日には働き方改革推進リーダーを決めた。現場を巡回し、協力会社の技能者によるグーグルアカウントの取得方法やパソコンの使い方などを指導し、関係者のITリテラシー向上を進めている。

現場でフォトラクションを使って写真整理を円滑にした


◆社員が同じ方向を向く

 ITツールの活用による働き方改革の実現は、多くのゼネコンが取り組んでいる。だが、ITリテラシーの格差や社員ごとの意識差などによってなかなか効果が出ないのが現実だ。平山建設の社員がスムーズに取り組める秘訣を土屋常務は「社員のモットーがあり、それが社員一人ひとりに浸透しているから」と実感している。平山社長は「社長がどれだけ理念を力説しても、一番大事なのは、社員が本気で『この会社は自分たちの幸せのためにある』と思って、同じ方向を向くことだ」と強調する。理念が浸透し、社員のベクトルが合うと「社員教育も変わるし、IT技術の活用方法も変わる」



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