【建設ICT 新時代へ】バーチャル御堂筋の出発点 大阪ガスビルを点群データ化 大阪ガス都市開発 | 建設通信新聞Digital

4月23日 火曜日

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【建設ICT 新時代へ】バーチャル御堂筋の出発点 大阪ガスビルを点群データ化 大阪ガス都市開発

 「バーチャル御堂筋を実現したい」と、大阪ガス都市開発の技術本部第1技術部建築グループに所属する能登俊平主任は力を込める。大阪・御堂筋のシンボルであり、国の登録有形文化財にも指定されているモダニズム建築の『大阪瓦斯ビルヂング』(大阪ガスビル)を所有・管理する同社が、建物全体を点群データ化したのは2020年2月のことだ。改修時の効率化や被災時の復旧計画立案を目的に取り組んだ点群データ化を出発点に、御堂筋エリアのデジタルネットワーク構築に乗り出そうとしている。


文化財・大阪ガスビルを点群データ化




◆ディベロッパーとして、既存施設の不動産価値を向上
 きっかけは、宮崎県都城市にあった。建築家の豊田啓介氏らの呼びかけでアーカイブ化された旧都城市民会館の取り組みに感銘を受けた能登氏が「同じような試みができないか」と立ち上がった。1933年に竣工した大阪ガスビルの竣工図面はあるものの、増築や改修が繰り返され、細部にわたる現況把握ができていない状態だった。今後の維持管理の効率化を前提にしながら、デジタルアーカイブ化を提案した。

 社内でも以前から現況把握を求める声はあったが、建物を点群データ化するのは初めての試みで、ノウハウも、つてもなかった。すがる気持ちで旧都城市民会館のデータ計測を手掛けたクモノスコーポレーション(大阪府箕面市)に相談したところ、10年前に実施した大阪ガスビルの改修に携わっていたことが分かった。工事を担当した大林組が仮設計画の作成や壁面タイルの状況を把握する手段として、クモノスコーポレーションに計測を依頼していた。能登氏は「つながりを感じた」と振り返る。

 南館と北館で構成する大阪ガスビルはSRC造地下3階地上8階建て総延べ4万6864㎡。点群計測はわずか4日で完了し、ノイズ処理を終え、20年2月には点群データが納品された。当初の目的であった現況把握は実現したことから、同社は次のステップとして点群データ活用の新たな枠組みを模索してきた。

 御堂筋のシンボルでもある大阪ガスビルは、大阪の魅力的な建築を公開するイベント『生きた建築ミュージアムフェスティバル』(イケフェス)に毎年参加中。コロナ禍の20年はオンラインの開催となり、紹介動画のコンテンツとして点群データを活用したことを機に「もっと多くの人たちに大阪ガスビルの魅力を知ってもらいたい」とプロモート動画を制作し、自社のホームページでの公開も始めた。

 能登氏は「設計事務所や建設会社が生産性向上を目的にBIMの取り組みを拡大しているように、ディベロッパーとしても不動産価値向上の手段として建物デジタルデータをもっと活用していきたい。他の企業と連携しながらバーチャル空間を構築し、御堂筋の魅力を発信したい」と考えている。


能登氏


 模範にしているのは、東京渋谷区の宮下公園をデジタルツイン化した新たなカルチャー発信の試みだ。近年の御堂筋沿線では14年の容積率緩和を機に、既存ビルの建て替えや再開発が相次いでおり、新築プロジェクトの施工者にはBIMを活用したデジタルツインを提案する動きもある。「できれば21年中にもバーチャル御堂筋をスタートさせ、少しずつネットワークを広げながら、大きな流れに発展させたい。興味がある御堂筋沿線の企業には気軽に声をかけてもらいたい」と呼びかける。


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