
高岡会長兼社長
エアウィーヴは、クッションや緩衝材をつくる技術を応用して開発した独自素材のエアファイバーというポリエチレン樹脂の3次元構造体だ。従来の低反発のウレタンマットレスとは違い、適度な反発力により腰への負担を軽くし、快適な寝心地を提供する。90%以上が空気でできているため通気性に優れている。水洗いが可能で、常に寝具を清潔に保つことができる。
「寝具には、これまでイノベーションがまったくなかった」と高岡会長。寝具業界は、100年ほど前にスプリング構造のマットレスが登場して以来、産業構造の変化がない特殊な業界といわれる。新規参入だからこそ、「睡眠に対して敏感な五輪のトップアスリートに使ってもらうところからスタートし、徐々にブランドを確立した」
2008年の北京五輪から五輪が開かれるたびにマットレスを提供してきた。鋭敏な身体感覚をもつトップアスリートの支持を得て、まさに「五輪とともに成長」を遂げてきた。ホテルなどへの導入実績も徐々に増え、売上高は07年の発売以来おおむね右肩上がりに伸び、20年には180億円を達成するほどに成長した。

選手村で使われた3分割マットレス。ポリエチレン樹脂の密度を変えて表裏で硬さの違う3パーツを作り選手の体形に合わせて入れ替えられる
◆高機能マットレスで睡眠の質追求
設立当初から「物を売るのではなく“睡眠の質”を売ろうと考えていた」。それまで「よく寝たかどうかは単に睡眠時間の問題になっていたが、寝る時と起きた時だけでなく、その間の重要な部分を解明しよう」と研究を行い、睡眠の質の高さを科学的にも実証した。
その1つとして11年から、“睡眠負債”の提唱者で、睡眠生体リズム研究所の所長でもある西野精治スタンフォード大医学部教授らと共同研究を実施。睡眠時の体温と眠りの深さを研究し、エアウィーヴを使用した方が低反発マットレスを使用した時に比べて睡眠初期の深部体温がより大きく持続的に低下し、深い睡眠量が増えることが明らかになった。
13-15年にかけては、同大と米国アスリートの寄宿学校「IMGスポーツアカデミー」のアスリートを対象に共同研究を行ったところ、エアウィーヴで寝た後の方が40m走、立ち幅跳び、スタードリルの種目で運動パフォーマンスが向上するという検証結果が導き出された。
さらに「睡眠の可視化」にも注力している。長年続けてきたトップアスリート、エアウィーヴ使用者を対象にした睡眠研究で蓄積したデータと、個別身体情報を測定して分析・製品化する技術を活用し、睡眠計測アプリ「エアウィーヴ・スリープ・アナリシス」を開発、無料で提供している。スマートフォンにインストールし、そばに置いて寝ると睡眠時の体の動きから眠りの深さを手軽に測ることができる。「眠りの質が、いかに日中のパフォーマンスに影響するかを見えるようにすれば、さまざまな人が関心を寄せ、研究も進むだろう」と期待を寄せる。

竹中工務店の寮に導入されたエアウィーヴ 四季布団 和匠
既に竹中工務店の社員寮「深江竹友寮」(神戸市)には200床分の寝具を納品し、同社の協力のもとで「エアウィーヴ・スリープ・アナリシス」を使い、仕事と睡眠の関係を調査している。健康経営の推進を掲げるJR東日本も、管内全域の駅や運輸区、設備のメンテナンス業務を担当する事務所など1万4000床に寝具を導入。JR西日本やJR西日本グループの中国ジェイアールバスも、従業員仮眠室に採用している。
“一流”の快眠環境を“一流”のテクノロジーで支え続ける挑戦は続く。高岡会長は「インフラ整備に携わる建設業の皆さんの健康管理に、もう1つのインフラ商品である寝具の立場からお役に立ちたい」とメッセージを送る。