【早大国際文学館が10月1日オープン!】村上春樹の世界観を「トンネル」で表現 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【早大国際文学館が10月1日オープン!】村上春樹の世界観を「トンネル」で表現

 早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が東京都新宿区の早稲田大学キャンパス内に完成し、村上春樹氏、設計した隈研吾氏らが22日、早大国際会議場井深大記念ホールで記者会見し、国際文学館に期待することなどを述べた。既存の4号館を改修して国際文学館としてリノベーションしたもので、10月1日に正式オープンする。

「階段本棚」で物語の世界に囲まれる




 村上氏は、4号館での学生時代の思い出としてジャズピアニストの山下洋輔さんのライブがあったことを話した後、「そんな建物を今回使わせていただけることになったのは興味深い巡り合わせだ」と述べた。当時大学解体というスローガンを掲げて運動をしていたことにも触れ、「心に描いていたのは先生が教えて生徒が受けるという一方通行的な体制を打破して開かれた自由な大学をつくっていこうというのが僕らの思いだった。国際文学館が早大の新しい文化の発信基地になればいいなと思っている。学生たちがアイデアを自由に出し合って立ち上げる場所になるといいなと思っている」とも語った。

 隈氏は「村上春樹作品の世界をトンネル構造と呼ばせていただいた。ある扉を開けると違う世界に入る。そんな建築空間を再現した」などと話した。

 会見には、田中愛治早大総長、十重田裕一村上春樹ライブラリー館長、柳井正ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長も出席した。

左から十重田氏、田中氏、村上氏、柳井氏、隈氏




 村上作品の世界観を再現するため隈氏は、本に触れる場所を「トンネル」と「窪地」として設定設計コンセプトとした。外観の低層部を囲むうねった木のファサードと内部の吹き抜けの階段本棚が斬新で、いずれもトンネルを象徴している。階段本棚のトンネルと、カフェやオーディオルームなどの窪地を行き来する空間構成としている。

 国際文学館のコンセプトは「物語を拓こう、心を語ろう」。村上氏は物語について、「ぼくらの意識がうまく読み取れない心の領域に光を当ててくれるものだ」としている。1階には村上氏のメッセージが展示されており、「学ぶというのは本来、呼吸をするのと同じです」「『息をしやすい学びの場』となることを、心から祈っています」などと書かれている。国際文学館は2019年6月に早稲田大学内に組織として設立され、村上氏から小説作品の執筆関係資料、インタビュー記事、書評、海外で翻訳された膨大な書籍、収集した数万枚のレコードなどが寄託・寄贈された。


「木のトンネル」のファサード


 隈氏によってリノベーションされた建物は、RC造地下1階地上5階建て延べ2147平方メートルで、地下1階にカフェ、ラウンジ、ポケットパーク、「村上さんの書斎」、吹き抜けの階段本棚、1階に受付、ギャラリーラウンジ、オーディオルーム、2階にスタジオ、ラボ、展示室、3、4階に研究室、5階に事務所、館長室が設置されている。カフェは、村上氏が学生時代にジャズ喫茶を経営していたことを踏まえて、早大初の試みとして学生が企画・運営する。オーディオルームは、村上氏が選んだスピーカー、プレーヤーなどのオーディオ機器を設置し、村上氏と関わりの深い音楽を体験できる。2階のラボにはスタジオが併設され、海外の学生や研究者との交流が可能だ。

 地下1階に展示されている隈氏のメッセージには、コンセプトの「トンネル」について触れられている。村上氏の小説によってどれだけ多くの人が救われたのだろうかとし、自分も村上氏の小説で救われた一人であると述べる。

 そして、村上氏の小説を読み始めるとトンネルの中に吸い込まれていくような感覚を味わうと指摘し、そのトンネルの入り口は日常の世界の中に突然にぽかんとあいているという。最後のページを閉じると日常に放り出され、穴に吸い込まれる前の自分とは全く別の人間になっている。そんな本物のトンネルが村上氏との共同作業でできたとしている。

 実際の建物は、ファサードの木のトンネルから中に入ると別の世界が広がり、物語に取り囲まれた階段本棚へと続く。階段本棚は本の森のようなイメージで、ランダムな本棚は天井に近づくにつれて枝分かれをしているように見える。ラウンジやカフェなどのスペースにある家具は、時間を表現するためにアンティークなものを探したという。2階の展示室では、来年2月4日まで「建築のなかの文学、文学のなかの建築」展を開催している。大学では「文学の家」として多くの一般来場者を見込んでいると話す。



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