【世界初 宇宙用汎用型ロボット開発】GITAIファウンダー&CEO 中ノ瀬翔氏 | 建設通信新聞Digital

5月13日 月曜日

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【世界初 宇宙用汎用型ロボット開発】GITAIファウンダー&CEO 中ノ瀬翔氏

[S1」船内に取り付けたロボットアームがソーラーパネルを組み立てる



 宇宙ビジネスが活発化している。国家事業だった宇宙開発は、民間企業が最後の未開拓地を求めて競い合う時代へ移行しつつあり、イーロン・マスク率いるスペースXや、ジェフ・ベゾスがオーナーのブルーオリジンなど、宇宙への輸送手段を安価に提供しようという企業が現れている。宇宙飛行士よりも安く安全なロボット労働力の需要が急増する中、日本発スタートアップで宇宙用汎用作業ロボットを開発するGITAI(東京都大田区)は、世界初の汎用型ロボットを開発し、近く米スペースXのロケットに搭載され国際宇宙ステーション(ISS)で人に代わる船内作業の実証実験を行う。中ノ瀬翔ファウンダー&CEOは「2040年には、月や火星に都市や宇宙コロニーを建設するための安価で安全な労働力を提供したい」と意気込む。

  宇宙空間での作業は、大半を宇宙飛行士が担う。その時給は約500万円といわれるほど高額だが、ロボットで代替すればコスト削減のみならず、宇宙空間で飛び交う放射線の危険を回避できるという安全上のメリットもある。16年に創業したGITAIは、「宇宙に安価で安全な作業手段を提供する」をコンセプトに、宇宙飛行士の作業コストを100分の1に抑えるため、その業務を代替する半自律、半遠隔稼働の汎用型作業ロボットを開発し、宇宙機関や民間企業に販売している。「この20年間、宇宙空間に携わる民間企業は輸送の技術を開発することが主で、作業手段にフォーカスした企業が少なかった」という。
 一方、同社の半自律・半遠隔の双腕ヒューマノイドロボット「G1」と、ロボットアーム「S1」は、AI(人工知能)による自律制御と地上のオペレーターが専用のロボット操縦システムを使用して行う遠隔操作を組み合わせる。「G1」は従来のロボットで困難だったスイッチ、工具、柔軟物の操作、科学実験、組み立て、負荷の高い作業などを1台でこなす。
 「S1」は、産業用ロボットのような従来の特化型ロボットアームでは難しかった捕獲、組み立てや負荷の高い作業も可能とする。汎用的な作業ができるロボットの需要は高まっており、「宇宙開発のフェーズは“作業”に移行しつつある」と確信する。
 今回の実証実験では、「S1」をISS船内に設置し、宇宙船内作業・組み立て作業を担う。特に複雑で難易度の高い宇宙用ソーラーパネルの組み立て作業は、99%自律制御で遂行する。残り1%の人間の判断が必要な部分も、ロボット上部のカメラで撮影した映像をオペレーターが地上から確認して指示を出し、多様な作業をこなす。「何が起こるか分からないが、成功すればゲームチェンジャーになれる」と自信をみせる。大胆にトライアンドエラーを繰り返すことができるスタートアップならではの強みを生かし、わずか1年でS1を引き渡した。既にNASA(米航空宇宙局)の厳しい審査を通過、準備は万全だ。
 今回の実験は船内作業が主だが、宇宙ステーションの修理などの船外作業、衛星への燃料補給・修理、宇宙ごみを除去する軌道上サービスなど、幅広い作業を代替できるロボット開発を進める。既に不整地走行や3次元地図作製、電動ドリルによる地表面採掘などの作業ができる月面探査・基地開発作業用ロボットローバーも開発した。25年には月面での探査や基地建設の実証実験を予定している。

 同社は、これまでに4回の資金調達を経て計約24億円の調達に成功しており、「技術研究にとどまらず、事業化にこだわる」ビジネススタイルを貫く。既に宇宙機関や民間企業からの受注も着実に増やしており、顧客の課題を解決しつつ、将来の開発に生かせる技術力を磨いている。
 その着実な実績を下支えしているのは、「地上のロボット専門集団という人材の希少性の高さだ」。同社の技術者は宇宙分野に限らず、難易度の高い家庭用など、地上での幅広い活用を想定した汎用型ロボットの開発経験を持つ。ソフト、ハードウェアともに内製で、幅広い領域を一体化できる統合力の高さが同社の根底にある。

 少子高齢化や年齢構成の偏在が課題となる中、ゼネコンからも現場作業の汎用型ロボットによる作業代替に向けた相談が寄せられている。「宇宙空間ではすべてがルールに沿って実行され、予測不可能な事態は最小限に抑えられている。そのため規定の枠組みに合わせてロボットを開発できるが、地上では予測できない要素が多く、ロボットの代替は容易ではない」という。東京電力福島第一原子力発電所事故の視察などを経て、「災害救助に(ロボット活用は)なじみがあるだろうが、家庭用汎用ロボットなどと同様に予測できない状況においては一筋縄ではいかない」と感じている。だからこそ、「宇宙開発の技術を研究だけに終わらせず、事業化することで災害救助にも生かすことができる」と語る。

中ノ瀬CEOと月面探査・基地開発用のロボットローバー



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