日本モバイル建築協会(代表理事・長坂俊成立教大社会学部メディア社会学科教授・同大学院21世紀社会デザイン研究科教授)は、「モバイル建築」のユニット製造のライセンス提供を始めた。全国の工務店やビルダーなど事業者を対象に会員を募る。
モバイル建築は、木造の在来工法で組み立てるユニット型の建物で、大きさは1ユニット当たり長さ12メートル、幅2・4メートル。室内の延べ床面積は約28平方メートル、天井の高さは2・4メートル。陸海空の輸送に使うコンテナとほぼ同じサイズに統一している。加えて「耐震等級3」という高い安全性を備える。ユニットは1つずつ連結することで大きな施設になるほか、上に重ね2階建ての施設として使うこともできる。
このため、売店や住居、コワーキング、テレワーク、宿泊など、多様な業態のニーズに対応する。地震など災害が発生した場合や、新型コロナウイルス感染症などの応急的に対応する施設が求められる場合には、コンテナトラックなどでユニットを輸送し、被災地の仮設住宅や医療などの施設になる「動くみなし仮設住宅」としての活躍が期待されている。

モバイル建築のユニット 用途は住居、商業、オフィスなど多岐にわたる
◆長坂代表の思い「社会的備蓄という考えを広めたい」
長坂代表は、「災害発生時に地域の守り手となる建設業は、技能者の高齢化や担い手の不足などの課題を抱えている。このままでは、被災地に迅速な設置が求められる応急仮設住宅や福祉などの施設建設が遅れてしまう。この課題を日本全国にいる有志の方々と乗り越えていきたい」と、モバイル建築の普及にかける思いを語る。
「新しい建築の製造ノウハウを社会全体でシェアする。まずは全国の建築関係者に実際にモバイル建築をつくってもらいたい」という。そのため、ノウハウの提供時にロイヤリティーは求めない。ライセンス付与の主な条件は、協会の会員になってもらうことだと話す。「持ち前の技術とアイデアでモバイル建築を商業や住宅などに活用してもらい、災害発生時には被災地で困っている人たちを助けるべく、その移設に協力してほしい」と話す。
実物は同協会の取り組みに賛同し、ことし7月に協定を結んだ茨城県境町にあり、ホッケー場のクラブハウスや学童保育施設、地域居住、移住体験の施設として活用が想定されている。また、施設見学などにも対応している。
モバイル建築を「被災地に応急仮設住宅、福祉的な避難所などとして活用する『社会的備蓄』という概念で普及を推進する」という。社会貢献が大前提にあるが、平時にはグランピングやワーケーションなどの施設として、しっかり収益を得ることが可能だ。
「一般の恒久住宅と同等以上の耐震性や換気性能など安全性、省エネ性能を確保すれば、用途に応じて間取りや内装、設備、デザインなどは各社で創意工夫できる。実際に県産材を使ってデザイン性を高めたいなどの相談もある」といい、その汎用性や自由度の高さにも自信をのぞかせる。