【伸展する関西の建設ICT②】BIMは顧客の納得性高める手段 昭和設計社長 千種幹雄氏 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【伸展する関西の建設ICT②】BIMは顧客の納得性高める手段 昭和設計社長 千種幹雄氏



 昭和設計の千種幹雄社長は、BIMについて「顧客の納得性を高める有効な手段に加え、設計者の視点を広げていける可能性にも期待する」と語る。意匠だけでなく、統合モデル化も推進している。BIMとの向き合い方について聞いた。

千種社長


–BIM導入状況は
 2012年にBIM推進室を設置し取り組んできた。しかし、若手設計者については3次元ツールへの対応は早かったが、中堅設計者は日頃の仕事に追われ、やや足踏み状態になっていた。19年度に仕切り直し、皆が日常的なツールとして使えるように再研修を行った。
 建築業界のBIMの展開は一気に進んできており、しっかりと対応して行けるよう取り組んでいきたいと考えている。意匠設計はほとんど3次元で設計しているが、構造・設備についてはまだ途上である。統合モデルについては具体的にプロジェクトを指定している。
 現在は複数件が動いており、プロジェクト特性に合わせて課題抽出を進めている。20年からは積算連携にも取り組み、既に基本設計レベルでは対応できるようになった。実施設計段階にも段階的に広げていく。

–活用効果は
 BIMはデザインの多様性につながっている。頭で描いた形がダイレクトに具現できるため、設計の思考は今までと異なり、合わせて設計のプロセス自体も変化している。3次元化によって今まで注視していなかった細かな部分まで考えるようになり、それが設計の幅を広げ、新たなアイデア出しにもつながっている。生産効率だけでなく、品質向上の面でも有効だ。
 近年はBIMなしには成立しないような複雑なデザインも増え、意匠デザインを進めながら構造の細かな部分まで収まりを確認するケースもある。設計しながら環境性能を検証でき、一歩先を見据えた設計に取り組める。
 最適解を導き出す時間は早まり、その効果として顧客の納得性は高まる。これまで模型やパースで施主の了解を得ていたが、今はVR(仮想現実)も含め設計の意図を視覚的に体感してもらえるようにもなったことも大きい。設計変更の手戻りは減り、その分の時間を使って設計密度を高められる。しかし、BIMで得られるさまざまなものを総合的にデザインしていくなかで、設計者の感性がますます大事になってくる。

–今後の進展は
 BIMを軸に設計プロセスの再構築も進めている。意匠、構造、設備の各分野で標準化を進め、次の段階へと進めていく。コロナ禍になって在宅などで仕事をするケースが増える中、担当者間の打ち合わせでは3次元モデルを見ながら意見を交わす場面が増えている。BIMによって設計者の打合せの密度が上がっていくものと期待している。
 設計界全体でみれば、組織設計事務所の導入は進んでいるが、まだ広く普及しているとは言えないのではないだろうか。土木では国土交通省が直轄事業でBIM/CIMの原則導入を23年度に前倒し、国を挙げたインフラ分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)も動き出した。こうした動きは公共建築にも広がり、いずれ3次元設計が主流になる。
 複数の建物を持つ施主からBIM-FMの要望も出ており、維持管理段階は設計事務所として新たな活動領域として期待できる。ただ、設計から施工、維持管理へとデータが引き継がれる中で、段階的に属性情報が付加され、BIMモデルは成長していくが、責任の所在をしっかり議論しておかないと混乱してしまう。建築設計3団体からもガイドラインを提言しているが、今後このようなガイドラインが明確化されることが必要である。
 BIMの利用はこれからさらに広がっていく。国土交通省の「PLATEAU」は景観や環境のシミュレーションにとどまらず、都市インフラなども含め、都市防災にも展開していける。BIMを始めDXのさまざまな展開には、限りない可能性がある。

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