【BIM/CIM改革者たち】3次元活用は施工の価値づくり 前田建設 工藤 新一氏 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【BIM/CIM改革者たち】3次元活用は施工の価値づくり 前田建設 工藤 新一氏

 BIM/CIMの原則化が「建設業にとっての新たなステージへのスタートライン」と位置付けるのは、前田建設の土木事業本部土木技術部ICT推進グループでチーム長を務める工藤新一氏だ。社内では既に原則化を見据えたインフラ整備が完了し、BIM/CIM活用に向けた「歯車」が回り始めた。定着させるために大切なのは「現場が主体的にBIM/CIMと向き合える体制づくりであり、その成果をきちんと社内で共有していく枠組みを整えること」とポイントを絞り込む。

前田建設の工藤新一土木事業本部土木技術部ICT推進グループチーム長

 工藤氏は、前職の中央復建コンサルタンツ時代に国のCIMガイドラインのベースとなるモデル詳細度(LOD)や属性情報のあり方を検討する業務に携わるなど、建設コンサルタント側でBIM/CIMと深く向き合ってきた。建設業ではなじみがない3次元CAD利用技術者の1級資格も取得し、高度な3次元設計スキルも持つ。設計と施工それぞれの立場を経験する中で「事業の全体最適を前提にしたデータ流通の視点から、BIM/CIMの枠組みを構築していくべき」と考えている。

◆データの幹と枝を見極める
 原則化によってBIM/CIMデータは前段階から順を追って後工程に引き継がれるが、例えば設計段階で構築されたデータすべてが施工段階で活用されるわけではない。維持管理段階でも同様だ。フェイズごとに必要なデータは異なるだけに「データの『幹』の部分と『枝』の部分をしっかりと見極めながら、データのあり方、流通の仕方を検討していく必要があるだろう」と強調する。

21年度上期は11現場がBIM/CIM対応


 原則化前の現在は、設計段階からBIM/CIMデータが引き渡されない工事も多く、施工段階ではゼネコン自らが3次元データを新規に構築しているケースもある。施工時にデータをどう使うかという「枝」の部分が明確に決まれば、引き継いだデータをより使いやすいデータとして再構築できる。「これは手間ではなく、施工をより円滑に進めるための価値づくりであると考えるべき」と訴える。

 同社ではICT推進グループが中心になり、BIM/CIM活用に向けたインフラ整備として「研修実施」「体制強化」「ソフトウェア整備」「ガイドライン整備」「データベース整備」「3次元データ集整備」「ICT経費」の7項目について段階的に導入を進めてきた。21年度から7項目すべての運用がスタートし、現場が主体的にBIM/CIM対応を進める体制が整った。

 19年4月からCIM技術研修をスタートした人材育成では、CIM基礎知識(入門)を土木技術者925人のうち95%が取得済み。中堅若手を対象としたCIMモデル作成調整者(初級)は160人に拡大した。現在はCIM全体統括・照査責任者(中級)の育成に力を注いでおり、その中から将来的にCIMマネージャー・スペシャリスト(上級)を位置付けていく方針だ。

社内資格の概要図


 同社の公共土木工事の新規受注は年間30件を超え、稼働中の工事は全国に150現場程ある。「目安として中級のCIM全体統括は各現場に1人配置できるくらいまで増やしていきたい」。ことし4月から導入を始めたICT経費ではBIM/CIM関連の費用を現場扱いにせず、全社経費の扱いに位置付けることですべての土木現場が積極的に導入できるように工夫した。「これによってヒト・モノ・カネの枠組みが社内インフラとして整った」と説明する。

 同社のBIM/CIM現場数は20年度に24現場、21年度は上期時点で11現場に達する。BIM/CIM現場が着実に拡大する中で、初めてBIM/CIMと向き合う担当者でも、どう対応すべきかが判断できるように関連技術やノウハウをデータベース化するとともに、業務マニュアルも整備した。グループ会社のフジミコンサルタントや共和技術コンサルタンツと連携した現場へのICT支援体制も確立しており、「これから積極的に現場導入が進む」と強調する。

 23年度の原則化を機に、川上から川下までのデータ流通の枠組みが整えば、BIM/CIMは全体最適の効果を徐々に発揮していく。「現場は最初からハードルを上げず、効果のありそうな部分を見極めながら、着実に実績を積むべき。まずはBIM/CIMのメリットを感じることが、次につながる重要な一歩だと思う」と力を込める。

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