【空き家ゼロへの挑戦 隣人のように活用サポート】空き家活用 和田貴充CEO | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【空き家ゼロへの挑戦 隣人のように活用サポート】空き家活用 和田貴充CEO

(わだ・たかみつ)1976年 大阪府生まれ。20歳で父の事業を継承し、24歳で廃業。その後、不動産業界に飛び込み、建築、不動産に関わるあらゆる業務を経験した後、2010年に独立。日本の空き家問題を解決するべく、14年に空き家活用を設立。17年1月から、調査員を派遣し空き家の実態調査を開始。18年8月には第三者割当増資で6210万円を調達し「AKIDAS(アキダス)」をリリース。空き家問題解決のために1年の半分以上は全国を駆けまわる

  “埋蔵不動産”の流通を促し、空き家ゼロへ--。スタートアップの空き家活用(東京都港区)は、 自主調査による空き家活用データシステム「AKIDAS (アキダス)」を提供している。既に16万件超の物件情報を蓄積したことから、 今後は利活用したい全国の事業者と所有者を専属アドバイザー(仲介役)でつなぐ一気通貫のプラットフォームを立ち上げ、さらなる空き家の流通・ 活性化に取り組む。「隣人として、隣人のように」を理念に掲げる和田貴充CEOは「所有者に寄り添い、動かし、活用までサポートすることで、 国難とも言える空き家問題に向き合う」と決意を示す。

 住宅分譲事業で起業していた2016年、経営者仲間と長崎市端島(軍艦島)を訪れたことが事業のきっかけになった。かつては日本初のRC造住宅がつくられた最先端の街だったが、閉山を機にすべてが“空き家”の街となったその地を眺め考えた。「われわれはスクラップアンドビルドを繰り返して空き家問題を先送りしていないか。未来の日本をこの島のようにしてはならない」と。
 総務省の「住宅・土地統計調査」(18年)によると、全国の空き家は848万9000戸。直近の20年で約1.5倍に増え、総住宅数に占める割合は過去最高の13.6%に達した。33年には2100万戸を超えるとの予測もあり、空き家問題は深刻化している。足元では約500万戸が不動産情報サイトなどに流通しているが、残りの約349万戸は市場に出ていない。

 「空き家は“空っぽ”ではなく、 持ち主が紡いだ物語があるからこそ、 所有者はなかなか手放せない。 活用したい事業者も、どこにあるのか分からず経済性を見いだせないという理由で未流通となっている」。手を差し伸べるべき空き家を可視化し、アプローチを可能にすることが解決を図る初手だと見る。空き家問題の解決には、▽見つける▽集める▽動かす▽決める--のフェーズが必要だと訴える。
 18年に掘り起こしのためのデータベースとして「AKIDAS」を打ち出した。約20人の調査員が東名阪を中心に目視で現地確認し、集めた物件情報をウェブで有料提供している。不動産会社のほか、不用品回収、買い取りや掃除、リフォームにかかわる事業者、新しい事業のアイデアを持つ企業など、空き家を活用したい事業者が月額利用料を支払うことで情報を検索し、所有者とコンタクトを取る。約3年間で登録事業者は300社、売上高は4000万円を超えた。退職したシニア世代や地元に詳しい人材を調査員として雇用するモデルも評判を呼んだ。

 今後は物件を「動かす」「決める」というステージに介在価値を見込む。同社がアドバイザーを配置することで所有者に寄り添い、活用までをコーディネートする新サービス「空き家活用ナビ」がその一例だ。所有者の意向や不安な要素を聞き取り、適切な利用法や事業者選びなどの幅広い選択肢を示してサポートする。「オンラインとオフラインを融合し、入り口から出口まで“伴走”するサービス」だ。現時点では1件の成約につき約20万円の粗利を想定しており、16万件の保有データにアプローチすると仮定して320億円の市場を見込む。

新サービスではすべきことを決め、実行をサポートする人員を配置

 空き家問題の解決に悩む自治体との連携は1つの突破口になる。相談窓口を設ける自治体は多いが、人員、ノウハウ、予算不足の問題から自力での解決は難しく、実態調査をしても情報更新やデータベース化に課題を抱えている。全国最多の約4万9000戸の空き家が発生している世田谷区もその1つ。同区とはマッチング機能のあるプラットフォーム「せたがや空き家活用ナビ」を立ち上げた。アドバイザーがパーソナル情報をヒアリングし、プライバシーを考慮した上で適正な事業者の選定までをコーディネートするのが特徴だ。「空き家を探し出して踏み込んでコーディネートするという全国でも珍しい事例。まずは月間30件ほどの相談を受ける態勢を構築し、空き家の増加に歯止めをかけたい」と意気込む。

マッチングシステムに関する協定を結んだ和田CEO(左)と世田谷区の保坂展人区長

 異業種との連携も模索する。衛星画像の人工知能解析に実績を持つサグリ(兵庫県丹波市)と連携し、ドローンによるリモートセンシングデータをAI(人工知能)で分析、空から空き家を調査する実証実験を行った。「従来の現地調査の方法では天候に左右され、東京都全体の空き家を抽出するとなれば数十億円が必要だが、1件当たり100分の1のコストに抑えられる。定点観測が可能なため、所有者へ迅速に適切なアドバイスができる」とメリットを挙げる。衛星で調査ができれば、地方自治体の空き家対策にも大きく寄与する。両社は今後も協業の余地を探る。

 「空き家問題の解消にとどまらず、将来的にはまちづくりという大きな視点を持つ。自治体やインフラ事業者、金融機関などと広く連携し、未来の日本の国土の価値を高めていきたい」。ワン・アンド・オンリーではなく、競合他社が現れることによる市場の盛り上がりにも期待する。都市部を中心に物件情報を収集しているが、日本全体、ひいては世界展開をも見据える。パイオニアの挑戦は続く。



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