【i-Con2022⑦】JR九州 点群データと3Dモデルで施工計画/作業工程をシミュレーション | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【i-Con2022⑦】JR九州 点群データと3Dモデルで施工計画/作業工程をシミュレーション

【鉄道工事のi-Construction/ICTが業務プロセスの変革を推進】
 建設工事におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、鉄道運行の安全性確保、現場作業の生産性向上に向けた鉄道工事の分野でも積極的に推進されている。限られた時間で最大限の効率化が求められる線路閉鎖後の夜間工事などで効率的に作業を進めるため、BIMや点群データによる3次元モデルの活用、画像認識やAIなどの先端的な技術を積極的に採用し、従来の工事プロセスの変革を視野に入れた取り組みを進めることで、安全確保、省人化、時間短縮などに効果を発揮している。積極的にICTの活用を進めているJR東日本とJR九州の最新の取り組みを紹介する。

 JR九州建設工事部では、建設工事におけるICTの活用に向けた取り組みについて、点群データと3Dモデルを活用した施工計画の勉強を進めている。初めての取り組みとして、日豊本線別府大学駅(大分県別府市)の乗り換えこ線橋の撤去に当たり、点群データと3Dモデルを使った施工計画を作成した。


◆狭隘区間の施工計画にBIM/CIMを活用

 別府大学駅周辺は、建物や支障物に囲まれ、作業ヤードの確保が難しいため、踏切部にクレーンを設置する前例の少ない案を検討する必要があり、夜間のき電停止時間内の5時間弱という厳しい制約下における計画を3Dデータを用いて検討した。

 踏切上空は架空線が多く、周辺を建物で囲まれているため、クレーンの可動域が制限されることや、クレーンの配置による踏切内の支障物への影響が懸念された。そこで、現場状況を点群化したデータと、重機をモデル化した3Dデータを重ね合わせ、施工可能な重機規格の判定や、支障物との離隔距離の把握や干渉の調整、線路外への桁搬出方法などを詳細に検討した。その結果、70tクレーンを使用し、作業半径20m以内で吊り出しが可能なことを確認し、桁搬出までの作業工程をシミュレーションすることができた。

撤去計画の詳細検討。作業半径20m以内では70tクレーンを使用し吊り出し可能。踏切(線路内)へクレーンを進入させ配置可能であることを確認した


 高橋拓大施設課建設技術マネジメント課長代理は、「3Dデータを活用した施工計画は視覚的なシミュレーションを可能とし、施工の手戻り削減や関係者との合意形成に役立つことが確認できた。今後も安全を最優先に、効率的な施工計画の策定に努めたい」と手応えを感じている。

 施設部では、維持管理面でICTを活用するべく、JR九州コンサルタンツとともに、土木構造物である橋りょうとトンネルの検査支援アプリを開発した。従来の検査では過年度の検査記録を紙に印刷したものに変状を記録し、事務所に戻ってから現場での記録をもとに帳票を作成する必要があった。検査支援アプリを使用することで、タブレットのアプリ内に現場で変状をダイレクトに記録できるので、現地で検査と同時に帳票を作成することが可能になった。


◆橋りょうとトンネル検査支援アプリ開発

 橋りょう検査支援アプリは、変状写真や変状図に手描きでスケッチすることやテキスト入力ができる。変状入力画面には過去の検査履歴も表示されるので、前回検査からの変状の進行なども確認できる。また、アプリ内で作成した検査データは、電波が通じない場所での使用を想定してアプリ内に保存されるが、ウェブシステムにアップロードすることで、ウェブ環境があればさまざまな端末からあらゆる場所で検査データの確認、記録の修正ができる。

検査結果は現場でタブレットに入力。事務所での帳票整理を不要に(橋りょう検査支援アプリ)


 トンネル検査支援アプリは、1枚の展開図に変状のある位置や寸法、健全度、写真などの詳細な情報を入力できる。トンネルは電波が通じない環境にあることも多いためオフラインでの使用を想定し、電波が通じない環境でも使えるようにしている。また、既存の設備管理システムにアップロード可能な形式で出力できるため、事務所での内業時間を短縮できる。

トンネル検査支援アプリ


 社内稟議(りんぎ)の際は従来、検査記録簿や変状記録を紙で印刷して持ちまわっていたが、変状記録をアプリで作成することで、稟議の際もアプリの画面上の説明が主となり、ペーパーレス化を促進することができた。

 幸野郁工事課土木技術マネジメント主席は、「アプリの導入によって、検査後の事務所での帳票整理時間を短縮することができた。また、データの一元管理が可能になり、効率的な検査が可能になったと考えている。アプリを使用することで検査に係る書類のペーパーレス化にもつなげることができた」と成果を説明する。

 現在は、2022年度からの運用を目指し、停車場の検査支援アプリの開発を進めている。一方で、土工設備については、設備数も多く維持管理に時間と人員を要している現状があるため、検査の在り方を見直すとともに最適な検査システムを検討していくところから始めている。



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