【砂防堰堤7基が完成】芹沢地区土石流災害から6年半/日光砂防事務所 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【砂防堰堤7基が完成】芹沢地区土石流災害から6年半/日光砂防事務所

 2015年9月の関東・東北豪雨で集落背後から同時多発的に土石流災害が発生した日光市芹沢地区。あれから6年半の歳月が経過した。現場では、関東地方整備局日光砂防事務所による7基の砂防堰堤が完成するなどハード整備が概成し、現在はソフト対策に軸足を移しつつある。中でも全国的にも例が少ないという土砂災害に特化した「地区防災計画」は今後のモデルケースとして注目を集める。村松悦由所長は「防災意識が高い“今”のタイミングを逃さず、ハード・ソフトを総動員した防災対応力強化を図りたい」と力を込める。

 芹沢地区では、大雨特別警報発令直後の9月10日午前1時ごろに発災し、家屋6棟が全半壊した。同地区に近接する「中三依」の観測所では、最大時間雨量57mm(10日午前2-3時)、6日午後4時から10日午後10時までの総雨量は603mmを観測するなど記録的な大雨となった。
 日光砂防事務所は発災翌日の11日から本格的な現地調査を開始。芹沢に注ぐ7渓流のうち、砂防堰堤が整備されていた最上流部の田茂沢を除く6渓流で土石流災害による被害を確認した。芹沢本川の河床が上昇し、左岸沿いに敷設された地区唯一の生活道路となる市道芹沢線も大きく浸食していた。
 100年近い歴史を持つ日光砂防事務所だが、大きな一般被害を伴う災害に直面するのは、ほとんど経験のないことだったという。
 一方、田茂沢の砂防堰堤は土石流に伴う土砂や流木を完全に捕捉した。捕捉量は左支川の田茂沢第1砂防堰堤(高さ12.5m、長さ43.0m)が約1万4000m3、右支川の田茂沢第2砂防堰堤(高さ6.5m、長さ24.4m)は約1500m3で計1万5500m3の規模となった。市道芹沢線が寸断されたため、一時孤立状態となったが、下流集落(人家12戸)への被害を未然に防いだ。住民は砂防堰堤の整備効果を目の当たりにした。
 その後、同事務所は再度災害防止のため、17年3月までに6渓流で砂防堰堤の整備を実施した。ウドン沢は斉藤建設、中坪上沢は榎本建設、中坪下沢は磯部建設、滝向沢は浜屋組、下坪上沢は那須土木、下坪沢は中村土建が施工を担当した。
 被害が特に大きかった滝向沢では、2基目となる滝向沢上流砂防堰堤を那須土木の施工により21年7月に完成させた。約6年の歳月を経て、発災後に計画した砂防堰堤7基すべての整備を終えた。さらに中村土建施工の「R2田茂沢崩壊地対策工事」が3月に完成し、土砂を止める工事は21年度をもって完了した。

滝向沢の被災状況

滝向沢に設置した砂防堰堤2基

◆ハード・ソフトを総動員
 発災前に33世帯68人いた住民は今では28世帯48人まで減少している。だが、地域の生活はこれからも続く。今後の防災対策としてますます重要になるのがソフト対策だ。日光砂防事務所では住民との交流などを通じて、ソフト対策の重要性を感じ、「地区住民の避難行動支援」「子どもたちの砂防学習」の2本柱で取り組みに注力している。
 村松所長は「砂防堰堤である程度の被害は防げるが、一定以上になった場合は逃げないといけない」と話す。「われわれの専門的な知識と地域に精通した住民の知識を組み合わせ、安全な避難の計画を作っている」と説明する。

◆土砂災害特化の「地区防災計画」策定へ
 「災害の教訓を次の世代につなげる必要もある」と村松所長。日光市と地元の三依小中学校、地域住民とともに22年度上期策定に向けて取り組む地区防災計画について「日光市は、芹沢地区をモデルに他の地区でも計画をつくる意向がある」という。村松所長は、ハード対策に加えて、「ソフト施策で地域の安全・安心を高めたい」とし、同地区で得た知見を水平展開することで、市内、さらには全国の地域防災力の向上につなげる考えを示す。

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