【女性向けフルハーネス】「愛を感じる命綱」 | 建設通信新聞Digital

5月9日 木曜日

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【女性向けフルハーネス】「愛を感じる命綱」

 建設現場で女性の職人が活躍するシーンが増えてきた。それを下支えする女性用の工具や作業服も充実しつつある。そんなアイテムの開発を通じ、裏側から現場を盛り上げるなど、女性が活躍する領域が広がりをみせる。同性の職人が活躍するためにこだわりを持ってものづくりに励む、彼女らに迫った。
 墜落制止用器具などを製造販売する基陽(兵庫県三木市)は、女性専用フルハーネスとして業界最軽量クラスを実現した『KHノングラフルハーネス+ダブルじゃばらランヤード』を開発した。藤田典子常務は「女性開発チームがつくった女性向けハーネスは、恐らくほかに例がないでしょう」と自信をのぞかせる。

太陽の紅「prominence(プロミネンス)」から名付けた、華やかなベルトカラー。 どんな作業着にも合うマゼンタとシルバーのベルトが女性職人を引き立てる  


◆同性の声に寄り添うこだわり
 1977年、革や帆布の工具入れが一般的だった当時、同社はナイロン製の工具袋を国内で初めて製造販売した。藤田常務が「職人愛を追求するDNAが脈々と受け継がれている」と表現するように、作業用品に求められる丈夫さを確保した上で、それまで無地が主流だった工具袋に模様を入れるなど、職人の声に寄り添ったデザインを重視し、ラインアップの拡充を進めてきた。女性用ハーネスの開発も、現場の職人からの問い合わせが増えてきたことがきっかけとなった。
 同社は従業員の6割以上を女性が占める。ワーキングマザーも多い。2020年1月に結成された開発チームは3人全員が女性だ。メンバーの一人、久米梨佳子さんは19年に入社。1年目から新商品を開発するデザイン部に抜てきされた。中学生の時からものづくりに興味を持ち、工業高校に進んだ久米さん。職人を夢見ていたが、「女性だからけがが危ない」と周囲の理解を得られなかった。しかし、授業で初めて着用したハーネスを「かっこいい」と感じ、同社に入社。職人用の道具をつくるという新たな夢に向かってまい進している。

◆ 軽さに華やかさも求めて
 商品名の『ノングラ』にはNonGravity(無重力)の意を込めた。「毎日使うものだからこそ、体にやさしくありたい。無重力の宇宙空間のように軽く動けるフルハーネスをつくりたい」との思いからだ。安全を守る道具だからこそ、とにかく部品の軽量化を模索し続けた。
 職人へのヒアリングにとどまらず、開発メンバーが料理、掃除などの家事にも同社の既成品を身に付けて実際の重さや疲労感を体感した。職人の過酷な仕事を少しでも体験しようと、県内の山にも登った。肩に負担がかかり、「とにかく軽い」フルハーネスが求められていることを実感した。試作品を何度も身に付けて改良を重ね、ついに350mmリットルのペットボトル2本分に当たる720グラムの軽さを実現。同社製品と比べて約25%も軽量化した。
 デザインにもこだわった。実際に現場で働く女性職人から、「20代のころは男性と同じ物を選んで着ていたが、(経験を積む中で)華やかで現場にいても輝けるデザインがほしい」との要望が届いた。議論を重ね、「強くあろうとする人を支える色」をイメージし、濃いピンク色と銀の2色を採用した。
 女性職人には「デザインがかわいい」「ベルトの生地が柔らかく体にフィットしやすい」と好評だ。グッドデザイン賞を受賞した際には「審査員に『愛を感じる命綱ですね』と声を掛けてもらったことが印象深い」(藤田常務)。
 販売後に「男性でも装着できるのか」という問い合わせが多くあり、既に亀甲文様と空色の和柄デザインのフルハーネスも販売しており、今後もさらなる拡充・改良を続けていく。藤田常務は「重い、しんどいというハーネスのイメージを変える。女性がつくっても安心・安全ということを広げていきたい」と思いを込める。

日本の伝統文様の亀甲をイメージした「キッコウ」(写真)やさわやかな日本晴れをイメージした「セイテン」の和柄デザインも

“デコる工具”現場明るく

 ニッパーやドライバーの持ち手には、チェスやキャンディーのようなカラフルで印象的なパーツ--。女性を中心に空間演出を手掛ける「空間工房OKOME」(東京都足立区)は、無骨な工具類を“デコる”ライフスタイルブランド『A DECOR LIFE(ア デコライフ)』を立ち上げた。
 小原澤綾子代表は、これまで多くの建設現場に出入りする中で、「カラーバリエーションも少なく、大きくて無骨な工具しかないことに違和感を感じていた」と理由を語る。コロナ禍で通常業務が減ったことを機に、「自発的に表現できるプロダクトをつくれないか」と考え、現場でのモチベーションが高まるようなデザインの工具を1点ずつ手作業で製作し、販売を始めた。
 これまで製作したデザイン数は50を超える。女性の職人にも徐々に知名度が高まり手応えを感じている。「安全面はもちろんのこと、毎日使いたくなる工具がこれまでの土木や建築現場のイメージを変え、職種としての価値を高めることができれば。これからの未来をつくっていきたい」と、現場に新しい息吹を吹き込む。6月16日まで東急ハンズ新宿店で展示販売している。



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