【アウトドア×デベロッパー】住戸から街、地域づくりへ/スノーピーク | 建設通信新聞Digital

5月8日 水曜日

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【アウトドア×デベロッパー】住戸から街、地域づくりへ/スノーピーク

 アウトドアブランドと、都市でのアウトドア体験を付加価値として訴求したいデベロッパーとの協業が加速している。アウトドア用品の企画、製造、販売を手掛けるスノーピーク(新潟県三条市)は、身近に自然を感じる住まいや暮らしを提案する「アーバンアウトドア事業」に注力し、マンション、分譲地開発にまちづくりやデザイン監修の立ち位置で積極的に参画している。住宅とキャンプ用品をセットで提案し、リビングや庭でアウトドアを身近に感じてもらうことで、キャンプなどに接点がない層にもアプローチし、市場を拡大したい考え。事業創造本部でアーバンアウトドア事業を担当する王治菜穂子氏は「テクノロジーの進化やコロナ禍を受けて従来の価値観が揺らぐ中、人間に潜在する自然回帰の流れが起きている。価格や立地で選ばれがちな住まい選びに、キャンプという共通の言語を加えたい」と期待を込める。目指すは、アウトドアの〝日常化〟だ。

王治氏


  スノーピークは、ものづくりが盛んな三条市に本社を置き、アウトドアのギアやアパレルの小売りを軸に、さまざまな事業に発展させている。近年では「衣食住」に「働く」「遊ぶ」の2要素を加えた「衣食住働遊」をテーマに、同社が掲げるアウトドアの意「野遊び」を掛け合わせた幅広い事業を展開している。
 2020年の国内アウトドア市場は、コロナ禍の影響により販売金額ベースで4895億2000万円と前年に比べて減少したが、今後は堅調な伸びが見込まれる。それでも「日本のキャンプ人口は意外にも7%しかない」と王治氏。残りの約93%に当たる〝非キャンパー層〟にアプローチするため、『すべての人に自由な〝野遊び〟を。』をコンセプトにした空間を提案している。
 同事業では、工務店などに同社のショップ・イン・ショップを出店し、日常にアウトドア要素を取り入れた暮らし方を提案する一方、デベロッパーと協業して集合住宅や分譲住宅、分譲地の開発での街づくりも監修。2本柱で事業を展開している。
 庭や屋上空間にアウトドアを取り入れた空間提案はいまでこそ頻繁に見かけるようになったが、同社は15年から他社に先駆けて同事業を開始した。王治氏は「もともと市場創造型のプロダクト開発に注力していたこともあり、住事業でもようやく市場に認められてきたのではないか」と語る。三井不動産レジデンシャルと共同で開発した「パークホームズ立川」(17年竣工、立川市)では、これまでの住戸開発で不人気になりやすいマンション1階住戸と庭の間に、軒先でアウトドア気分を味わえる「半ソト空間」をつくり、人気プランに変えたことが話題を呼んだ。
 今秋に開業を控える、アウトドアを軸にした大規模住宅街「野きろの杜」(新潟市)でも、新潟土地建物販売センター(同)、石田伸一建築事務所(同)と協働し、スノーピークがアウトドアリビングや広場の監修を手掛けている。『アウトドアリビングのある住まい』をコンセプトに掲げ、各住戸に同社のファニチャー製品がレイアウトしやすいウッドデッキや土間リビング、庭などを取り入れている。

「野きろの杜」の街の中央に位置するコミュニティー広場「Life Site 野きろ」イメージ図。地元産の木材を使用したデッキテラスをL字型に整備し、その下にはアウトドアキッチン、広場には焚火台も設けることで、野遊びでつながる街に

「野きろの杜」リビングからの延長として使えるウッドデッキは、雨でも快適に使える一部庇付き。コミュニケーションを促すために道路面側に設ける。

 提案はハード面にとどまらない。竣工後の鍵となる「コミュニティー形成のノウハウ」が同社の強み。タワーマンション「パークタワー晴海(東京都中央区、19年竣工)」では三井不動産レジデンシャルと連携し、広大な屋外スペースにバーベキューやキャンプ宿泊、たき火などの本格的なアウトドアが体験できる屋外共用スペースを設けた。それだけではなく、アウトドアならではのコーヒーの入れ方、たき火台を使ったダッチオーブンの使い方、テントやタープの張り方のレクチャーを企画・運営している。居住者が野遊びのある暮らしを通じてコミュニティーをつくる仕掛けまで提供できるのは、アウトドアの知見を持つスタッフがいるからだ。

 竣工から約3年経っても、週末のキャンプサイトは100%近い稼働率で推移している。その秘訣を問うと王治氏は「自ら足を運んでまちに関わり続け、出会いを大切に丁寧につなげていくことだ」と切り返す。
 同事業の売上高は直近の21年12月期が2億9000万円で、右肩上がりで増加している。これまでは住宅に対する提案が主だったが、「人の暮らしと自然を融合した空間を実現するには、共有空間を含めた地域全体へのスケール感が必要になる」と考える。このため、全国で住宅街の開発事業に参画していく。
 大手デベロッパーとの協業を積み上げてきたが、「会社規模にはこだわらず、地域に密着し、われわれと同じ方向を向いている企業と組みたい」と語る。場所や数よりも取り組み内容を重視する。候補地は「急ぎがちな都市生活を、自然のリズムを感じて生きるというアーバンアウトドアの考えに従えば、都市部になるだろう」と話す。今後は若い単身者にもアプローチし、「分譲に限らず、賃貸のカテゴリーにも挑戦したい」と意欲を示す。

 

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