◆構造にこだわり強度追求
「兄の影響を受けて、1歳のころからレゴブロックに親しんだ。両親からの誕生日プレゼントもいつもレゴブロックだった」中学生のときにオリジナルの作品をつくり始めた。高校時代にはテレビ番組の『レゴブロック王選手権』に出演し、1m四方の東大寺大仏殿をつくり準優勝に輝いた。東大理科一類に現役合格した後、日本初のレゴ部を創設した。在学中に「自社の建物の模型をレゴでつくれないか」などと依頼が来ることもあったという。既に認定プロビルダーの肩書きも得ていたが、卒業後は大手鉄鋼メーカーにエンジニアとして就職した。その後、作品制作に専念するため、退職して「三井ブリックスタジオ」を設立した。
以来、デベロッパーや建機メーカーなど多方面からの制作依頼がひっきりなしに舞い込む。制作以外にも、組み立ての設計図を作成し、参加型のワークショップを開くこともある。創業から着実に活躍の幅を広げ、購入するパーツは1tを超える。
制作の際は建物の特長を捉えて表現することにこだわり、見た人の印象に刺さる表現を常に考えている。その矜持(きょうじ)に裏打ちされる表現力が、年代も国籍も超えて作品が愛されるゆえんだろう。
「作品を見た人に、『これレゴでつくってあるの?』と意外性をもって受け入れてもらうことや、(普段から見慣れている)レゴでつくられているから面白いと親近感を持ってもらうことの二つを大切にしている」と話す。なじみのあるランドマーク的な建築は、特に受け入れてもらいやすいという。
制作依頼を受けると、スケールは考えず、まずは展示空間を訪れ、その範囲で最大限に見栄えのする作品の規模を考える。「前からつくってみたかった」と語る『丸ビル』は、スタート時に高さを1.5mに設定した。グーグルマップのストリートビューを活用し、あらゆる角度から建物の構造を分析したほか、現地に出向くなど、時には資料写真が数百枚に及ぶ。「建物の縦横の比率がおかしいと見栄えが悪くなってしまう」ため、方眼紙に手書きでスケッチを正確に描いた。
とはいえ、建物の特徴が窓の枚数に表れている場合は正確に枚数をそろえ、窓枠のデザインに表れていれば、窓の数を不自然に感じない程度に減らさなければならないこともある。1スタッド(ブロック同士をつなげるポッチ1個)当たり8mmのレゴブロックを組み上げる以上、パーツの形を自由に変えることはできないからだ。「取捨選択をし、いかに工夫して表現するかが勝負だ。この建物にとって大事な要素は何か。どこをデフォルメし、どこを省略するのかを考える。そこが難しい」
凹凸感、立体感もその一つだ。『丸ビル』では幅の違うブロックを組み合わせることで、光の筋が入るようにこだわった。外装の縦リブ、凹凸のパターンによるタイル張り、ガラス張りのアトリウム。照明の照り返しも実物の丸ビルそのものに仕上がった。
一方で、見た目と強度はトレードオフの関係にある。建物強度を左右する“基礎工事”は重要だ。「一つひとつは小さなレゴブロックでも、大きな作品になれば、持ち上げるのに苦労するほどの重さになる。基礎部分は地上部をつくり始めてからでは変えられない。どこにどの柱を持ってくるのか、前もってどこに力がかかるのかを予想し、イメージを固めて構造を考えてつくらなければ、自重に耐えきれず崩れてしまう」。最近では、『通天閣』で繊細なトラス構造を忠実に再現して話題を集めた。組み始めてから基礎工事が終わるまでに全体の3、4割の時間を充てるというほどに、基礎部へのこだわりは強い。
住友建機とコラボレーションし、全長2mの建機を制作する動画は再生回数8万回を超えた。普段からメイキング動画の配信にこだわるのも、つくる過程の面白さを一緒に楽しみたいという思いが根底にあるからだ。「完成して終わりではない。建設現場も同じではないだろうか。資材が運ばれる過程から完成にまで興味を持ってもらえれば、子どもたちの関心も高まると思う」「思い返せば自身も小学生の頃、大蔵海岸(兵庫県明石市)近くの自宅から、明石海峡大橋が完成するまでの全工程を見届けた。日常の中で橋が出来上がっていくという経験に夢中になった」
仕事である以上、納期内に決められたものをつくる必要がある。「その制約の中でどうすればいいのかを考えるのがやりがい。制約の工夫はレゴブロックの醍醐味でもあり、依頼を受けて仕事をすることは自分のスタイルにもよく合っている」と自身を評する。「未来のまちだけでなく、あえて昔の風景を表現することも面白い。皆さんといろいろなアプローチを考えて楽しみたいですね」
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