持続可能な仕組み目指す/道路河川等管理情報システム
◆人手不足が契機に
協同組合による共同受注方式の導入は、深刻な人手不足により山間部の除雪作業が成り立たなくなってしまったことが契機だった。
それまでは、路線ごとの維持管理や小規模修繕を1件ごとに事業者に発注していたが受発注者双方の負担となっていた。特に除雪業務は深夜から早朝までのハードな仕事で事業者の負担が大きく、発注しても手を挙げる企業がいなくなってしまう事態が発生した。インフラの老朽化が進行し、今後さらに同様の事態が増えると危機感を募らせる中、出会ったのが福島県内の支部が取り組む共同受注の方式だった。
現地の取り組みを視察し、栃木県と協議を重ねて10年に共同受注方式を開始した。当初は除雪業務のみで着手し、11年には小規模修繕やパトロール業務も対象とした。
協会支部の単位では、日光・那須支部の協同組合から始めた。評判の広がりとともに年々拡大し、19年には10支部全てでの実施に至った。
◆災害対応時に効果
複数事業者が参画する協同組合による共同受注方式は、短期間に集中して人員を投入する必要がある災害時に大きな効果を発揮した。長年にわたる公共投資の減少により、通常業務を対応するための必要最低限の体制を維持することが精一杯の地域建設業各社にとって、単体企業で災害対応を担う余力がなかったためだ。
最初に効果が表れたのは、15年の関東・東北豪雨災害だった。協同組合に対応要請があり、パトロールや被災箇所の応急的措置を担った。協同組合で日常の維持管理業務を担当していたため、現地の状況に精通しており、迅速な災害対応が可能だった。
迅速な災害対応実現には、独自に開発した道路河川等管理情報システムの『災害システム』も大きな役割を果たした。災害システムは、協会員が携帯電話で写真を撮影・送信することで、被災箇所と被災状況が一目で判明する。災害時には、適切な事業進捗(しんちょく)や情報伝達する仕組みが求められることから、同協会が独自に開発し、11年5月から運用を開始していた。
災害システムの活用により、被災情報が迅速に収集・確認できるようになった。関東・東北豪雨の際には309件、東日本台風の際には655件の報告があり、広範囲の情報収集に機能した。
システムを有効に機能させるため、受発注者共同の災害対応訓練を13年から毎年実施している。協会の全支部、県の全土木事務所が参画し、非常時に迅速な対応ができるよう、操作方法や伝達方法の訓練を重ねている。
◆市町への拡大も模索
共同受注方式の市町への拡大も模索する。実現すれば、道路維持管理や除雪業務さらには災害対応を地域内でシームレスに提供することができるため、県民の利便性向上につながる。小規模自治体の技術職員が不足する中、一括委託が可能な共同受注方式の利点は大きい。実際に、自治体からの希望や問い合わせが寄せられているという。
ただ、現在の協同組合の規模で全て対応が可能か、新たな人員確保が必要になるのか検討すべき課題点は多い。支部ごとに状況が異なるため、今後は各支部で対応策を検討していく方針だ。
◆対応維持へ共同受注
「(地域建設業は)会社がスリム化し、プラスアルファの作業が生じた際に対応する余裕はない。支部の中でやりくりする協同組合による共同受注の仕組みにしなければ、今後の災害対応はできなくなる」。栃木建協の印南洋之専務理事は共同受注方式の意義を強調する。 共同受注方式では、日常の維持管理業務を地域一括で発注するため、地域建設事業者の定常的な収入確保にもつながる。「自由競争がある中であっても、(負担の大きい)災害対応やメンテナンス対応は誰かが担わなくてはならない。パラダイムシフトし、共同で協力してやっていく必要がある」と見据える。