【BIM2023⑦】ANALOG 顧客価値示す対話型空間づくり | 建設通信新聞Digital

5月6日 月曜日

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【BIM2023⑦】ANALOG 顧客価値示す対話型空間づくり

Archicadを業務ツールに共同作業

池田氏

 「顧客に価値を示す最適な手段」とBIMを位置付けているのは、ANALOG(横浜市)の池田暢一郎代表取締役だ。BIMソフト『Archicad』を業務ツールとして使いこなし、店舗、オフィス、空港などの建築および内装設計を中心に幅広く活動する中で「顧客と対話する上での欠かせないツールにもなっている」と付け加える。

 池田氏がペリ・クラーク・アンド・パートナーズ・ジャパンから独立したのは2010年。それまでに培ってきた顧客とのつながりもあり、独立後も幅広い用途を手がけてきた。多彩できめの細かなデザイン力が評価され、設計の依頼も増える中で「もっと顧客の思いをダイレクトに反映したい」との思いを抱いていた。

 2次元設計では、3次元の空間提案をCGソフトを使って再現し、顧客と対話してきた。変更依頼があれば、設計図とともに3次元モデルも修正する必要がある。特に内装設計では修正が頻繁にあり、しかも迅速な対応も求められ、従来の進め方では「とても非効率」と感じていた。

 複数のBIMソフトを試す中で「マテリアルのモデル表現が自然で、しかも直感的に設計できる」との理由からArchicadを選択したのは15年のことだ。導入当時から全面適用に踏み切り、Archicadのチームワーク機能を使い、事務所も複数で設計作業を進める枠組みに切り替えた。空港共用部の内装空間を手がける実績も複数あり、各担当がどの部分を作業しているかを見える化する共同作業の効率的な枠組みも確立している。

 同社は老舗文具店「伊東屋」の内装設計を数多く手がけているように、顧客の思いを形にしていく対話型の空間づくりで信頼関係を築いている。顧客の思いを聞く手段として、Archicadビューアツール『BIMx』を有効に活用している。BIMxはレンダリングソフトに負けないくらいのリアルなモデル表現がきることから「顧客とその場で建設的な対話が実現する」と実感している。

ビューアツール「BIMx」も有効活用


 内装設計を数多く手がける中で充実させてきた家具や素材のコンテンツデータも同社の強みだ。様々な種類の家具や室内備品のモデルをライブラリーに蓄積しており、顧客の要求に見合った空間の彩りとして再現していく。「内装設計は顧客が納得する空間デザインを提供することであり、空間を演出するコンテンツはわれわれにとって欠かせないツール」と説明する。

 BIM活用の新たな試みも進行中だ。同社が設計監理を担う横浜市内の共同住宅は構造材の全てをCLT(直交集成板)パネルで構成するプロジェクトで、林野庁のCLT活用建築物等実証事業にも採択されている。現場に搬入されるCLTパネルにQRコードラベルを貼り付け、順を追って部材配置ができるように、BIMデータを利活用した。「柔軟にデータ活用ができるArchicadの強みを発揮できた事例の1つ」と強調する。

 同社は、豊富な実績を生かし、BIMのコンサルティング事業もスタートした。同業他社からBIM導入の相談をきっかけに事業化に踏み切った。「BIMは険しく高い山と考えている設計者のイメージを少しでも払拭できれば」と考えていた。設計事務所の業務に当社が参加協力する形で、モデリングをしながらトレーニングを進めていく。実務をしながら設計担当のBIM教育ができることから、相談依頼も増えている。

 社名のANALOGには「目に見えないものを形に」という意味を込めた。「デジタルと相反したスタンスの設計事務所と勘違いされるケースもあるが、BIMを足がかりにビジネス領域をさらに拡大していきたい思いを強く持っている」。業務の7割を占める内装設計では頻繁にフロア改修が行われるだけに「内装リニューアルというFM領域にはBIMの利用価値が大いにある」と考えている。

 現在は顧客の要求を反映した空間づくりにBIMを効果的に使っているが、設計に平行して「概算コストを迅速に算出できる仕掛け」も必要と、積算ソフトとのデータ連携も検討していく方針だ。顧客の中には環境配慮の取り組みを重要視する企業が多く、省エネシミュレーションとの連携も選択肢として考えている。池田氏はBIMを足がかりに設計者としての業務領域も広げようとしている。

チームワーク機能で共同作業を確立



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