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5月4日 土曜日

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【塗るだけで発電するインク】ソーラーパワーペインターズ 下山田力社長

 ソーラーパワーペインターズ(栃木県小山市)が開発を進めている、あらゆる物に塗るだけで発電できる“発電インク”に注目が集まっている。主流のシリコン型太陽光パネルに比べて、軽く、安く、設置場所も選ばない。常識を覆す太陽電池で、まずは太陽光発電フィルムとして、2028年をめどに窓用ブラインドの製品化を目指す。下山田力社長は「どこに使えるのか、その価値を共有できる企業と可能性を追求したい」と語る。

現状のカラーバリエーションは赤、青、黄色の3色。透明のニーズも高いという

下山田社長

 同社は、小山高専機械工学科の加藤岳仁教授が会長を務め、茨城高専(茨城県ひたちなか市)から小山高専専攻科に進んだ同級生、下山田社長が22年に立ち上げた。
 開発を進めるのは「発電インク」と名付けた太陽光で発電する独自開発の塗料だ。正式には塗布型有機無機薄膜太陽電池と呼び、半導体と金属両方の特性を持つ物質と、電気伝導性の高い高分子化合物で作る。研究レベルでは既に完成していると言う。
 フィルムなどの柔らかく軽量な基板に塗り重ね、太陽光を当てると発電する性質がある。その根幹には、加藤教授が小山高専修了後に進んだ九州工大大学院時代から、20年以上にわたり研究を続けてきた技術がある。

透過性の特性を生かし、ガラスやフィルムなどにインクを塗って使う


◆複雑なデザインにも対応
 「どんなに複雑なデザインや、繊細な流線型だとしても、塗るだけで発電できる」と語る。例えば将来、住宅の壁や屋根に発電インクを塗っておけば、夜には風呂を沸かせるかもしれない。

 光を吸収する発電層の色を、赤、黄、青色の3色自在に変えられる透過性は発電インクの特長の一つと言える。インクを透明にしてオフィスビルの窓に塗れば、意匠性を損なわず発電することができる。企業規模によっては相当な発電量になるだろう。ヘルメット、自転車、信号、カラーコーンなど、想像すればきりがない。まずは屋内の活用をイメージしているが、将来的には外壁や信号など道路以外の構造物などへの使用も想定している。
 固くて重いシリコンを基板とする一般的なソーラーパネルの変換効率が15-20%と言われるのに対し、発電インクの変換効率は現状で3%程度となっている。今後も素材を工夫し、25年には5%、35年には20%の目標を掲げる。

 ただ、下山田氏は「24年度以降に予定している実証実験次第だが」と前置きした上で、「フィルムに施工した場合、縦にしても丸めて向きを変えても光の角度に影響を受けにくいため、発電インクは、透過性を生かした場所に導入する場合は10%程度あれば十分だ」と考える。
 発電効率だけで言えば半分以下だが、軽くて設置場所を選ばず、ソーラーパネルが置けない場所でも発電できることが特長だ。将来的には紙や布に塗布も可能で、太陽光はもちろんのこと、蛍光灯や発光ダイオード(LED)など室内光での発電も可能となっている。重量だけでなくコストも抑えられるため、製品化の際は価格を従来のソーラーパネルの10分の1程度にできる計画だ。

 欧州などで環境規制の対象となっている鉛を一切使わず、通常廃棄やリサイクルが可能で、環境負荷を低減する利点もある。建築現場の廃棄物削減という課題解決にも一役買いそうだ。

◆世界中に電気を

大気中でインクを吹き付けて設置できる。他の太陽電池と比べて、設備投資が必要な大がかりな特殊環境を作る必要がない


 今後は、需要に応じた発電出力やインクの透過性とともに、施工の簡易性も追求する。「大気中でスプレーコーティングのように塗れる簡易性はあるが、均一に左官職人のように塗らないと塗りむらが出てショートしてしまう可能性もある。将来的には一般のユーザーでも簡単、均一に塗れるように、周辺のアタッチメントの開発も含めて検討していく」と語る。

 再生可能エネルギーへの注目が高まる中、企業からの問い合わせや見学が相次いでおり、24年度からは実証実験に着手すると言う。
 世界を見渡せば、発展途上国をはじめ手軽に電気が使えない地域や、送電設備のない極限環境もある。現状ではシリコン型太陽光パネルを導入しようとしても価格が高く、メンテナンス面や廃棄面でのハードルもあり、発展途上国では実現しづらい状況にある。下山田氏は「今までの概念を覆す発電インクによって、全世界に電気を届けたい」と夢を語る。



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