◆設計労務単価の行き渡りと両輪で
A 国土交通省から建設キャリアアップシステム(CCUS)のレベル別に試算した建設技能者の年収が示されたね。
B 公共工事設計労務単価が賃金として行き渡った場合の年収であり、法的拘束力はなく、支払いを義務付けるものではない。それでも若い世代が「どのレベルになったら、どのくらいの給料がもらえるのか」という見通しを持てるのはいいことだと思う。
C 業界団体もレベル別年収の公表におおむね賛意を示している。ただ、建設技能者に賃金を支払う立場にある建設産業専門団体連合会からは「なぜこのタイミングなのか」という疑問の声が上がっていると言う。法的拘束力がないとはいえ、こうした数字は一人歩きしがちだから気持ちは分かる。
B 元請けからの請負価格は、仕事量の繁閑によって左右されるケースが多いため、適正かつ安定した請負価格の実現が欠かせない。
D ある専門工事業の社長は「自分がこの仕事に就いた44年前は、一生懸命働けば同い年のサラリーマンの倍ぐらいは稼げた。若者にとって夢のある業界にするためには、われわれ事業主が元請けときちんと交渉しないといけない」と言っていた。
C そう言えば、斉藤鉄夫国土交通相も国会議員になる前に元請けの建設会社で勤務していた時代のエピソードとして「毎週土曜の夜は職長にごちそうになっていた」と話していた。
A いずれにしても建設技能者が誇りを持って働ける環境整備を急ぐ必要がある。現在、中央建設業審議会と社会資本整備審議会の基本問題小委員会では、設計労務単価の行き渡りに向けた制度改正の議論を進めている。レベル別年収の両輪として、行き渡りが制度設計されることを期待したい。
ガバナンスは企業の必須課題に
A 東洋建設と任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」の対立を巡る報道が増えているね。
B 来週27日に東洋建設の株主総会があり、そこに両社がそれぞれ取締役候補者を提案している。現経営の継承か、YFOによる刷新か、株主の二者択一に委ねられた。
C 東洋建設は新社長に内定している大林東壽取締役兼専務執行役員らの候補者を上程している。対するYFOは吉田真也元三菱商事代表取締役兼常務執行役員のほかゼネコン元幹部らを提案した。ちなみにYFOは東洋建設が提案した大林氏ら一部の取締役就任には賛成の姿勢だ。
A 大林氏らの就任や国内土木を基盤として洋上風力に力を入れていくスタンスなど認識が一致している部分もあるように見えるが、どうして対立に至ったのか。
B そもそもの発端は1年前のインフロニア・ホールディングス(HD)による東洋建設へのTOB(株式公開買付)にYFOが介入してからだ。インフロニアHDによるTOBが不成立となった後、東洋建設とYFOは協議を続けたが物別れに終わり、主導権争いとなった。
C 株主総会を控え、つばぜり合いは激しさを増している。YFOが足元で株の買い増しを続ける一方、東洋建設は商船三井との合弁会社設立を発表するなど、施策の実効性を株主にアピールする。
D 短期的な企業価値向上策(増配や自社株買い)を争点としたアクティビスト(物言う株主)対ゼネコンの構図とは違って見える。ガバナンスを建前と捉える考え方はもはや過去のものだ。スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)やコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)への対応は今や企業の必須課題と言える。